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竹内涼真は理想、横浜流星は現実 池井戸潤の“NOT歌舞伎”な銀行員映画『アキラとあきら』

“理想”が“現実”に勝ることもある、そう信じさせてくれる熱い人間ドラマ

 顧客を第一に考えると言っていても、現実的には難しいのが銀行員という職業である。何しろ、銀行は慈善団体ではない。時にはドライな目線も必要になってくる。目の前の人を助けたいと思っても、個人的な感情を優先させてはいけない。これは仕事なのだと、自分の行動を割り切らなければ耐え切れない。

 例え難病の子どもの手術費用であっても、返済が滞れば理由など不要とばかりに個人預金を差し押さえるのも銀行の仕事だ。しかし、山崎瑛(竹内涼真)の場合は、顧客のこと、その家族のことまでも心配し、差し押さえを防ぐために預金を引き出すように助言する。人間としては正しい判断かもしれないが、銀行としては決してやってはいけないことをしてしまう。

 作中に、「晴れた日に傘を貸して、雨の日に返せと言うのが銀行だ」といった印象的なセリフがある。過去にビジネスにおいて銀行と取引きをしたことのある筆者にとっては、銀行というものを表現する際に、最も的を射ている言葉だと痛いほど感じた。

 瑛はプロのバンカーとして、私情を持ち込むことはいけないとも自覚している。それでも、どうしても顧客のことを考えすぎてしまう……。そんな葛藤は、バンカーはもちろん、経営者やサラリーマンであっても感じたことのある葛藤ではないだろうか。

 一方、階堂彬(横浜流星)はドライな視点で出世していく、瑛とは真逆な存在。自分の成績や出世は度外視で顧客第一主義な瑛を見下している部分もあるが、同時に才能を信じている部分もある。瑛が“理想”であるなら、彬は“現実”を体現している。対照的だが、働く人間にとってはどちらも必要な存在だ。2人が共通の試練に直面するとき、それが証明されることになっていく。

 ドラマ版よりコンパクトな映画尺でも物足りなさを感じさせないほどに凝縮された内容、とにかく終始ストレートで熱くて厚い人間ドラマの連続で、「ここで泣け!」と言わんばかりな演出が多数ある。特に、江口洋介演じる上司の使い方はズルい。まんまと感動させられてしまうのは、癪に障る部分もある。でも、今作を観ると、雨の日に傘を貸してくれるバンカーもいるかもしれないという期待を持てる。

 こんなストーリーが理想論や映画的な綺麗ごとだけに収まらないのは、やはり池井戸潤の元銀行員という経歴、ビジネス本を執筆していた実体験に基づくリアリティがあるからだろう。日本における、銀行の将来の在り方を啓示しているようでもある。

 

映画『アキラとあきら』
2022年8月26日(金)全国東宝系にてロードショー

監督: 三木孝浩
脚本: 池田奈津子
出演: 竹内涼真、横浜流星、高橋海人、上白石萌歌、児嶋一哉、満島真之介、塚地武雅、江口洋介、宇野祥平、戸田菜穂、野間口徹、酒井美紀ほか
音楽:大間々 昂
主題歌:「ベルベットの詩」/back number(UNIVERSAL SIGMA)
企画:WOWOW
制作プロダクション:TOHOスタジオ
配給:東宝
公式サイト: https://singasong-movie.jp/ 

バフィー吉川(映画ライター・インド映画研究家)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。NHK『ABUソングフェスティバル』選曲・VTR監修。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

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ばふぃーよしかわ

最終更新:2022/08/27 07:00
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