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『鎌倉殿』源実朝に投げかけられた「お前ひとりの悩みではない」名場面の意味

文=新城優征(しんじょう・ゆうせい)

『鎌倉殿』源実朝に投げかけられた「お前ひとりの悩みではない」名場面の意味の画像
北条泰時(坂口健太郎)を見つめる源実朝(柿澤勇人)|ドラマ公式サイトより

 小林隆が「三谷さんの作品が大好きですが、今回は特に見事」と称賛するなど、三谷幸喜の盟友からも高い評価を得ているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。9月11日に放送された第35回「苦い盃」では、3代目鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)をめぐる表現が話題となった。

 第35回では、実朝の正室として、後鳥羽上皇のいとこにあたる女性・千代(加藤小夏)が鎌倉にやってくるが、浮かない表情の実朝。そばで控える北条泰時(坂口健太郎)に、彼の妻について尋ねる。泰時が「なかなか気の強い女子(おなご)で、叱られてばかりです」と答えると、「不思議だな。文句を言ってるのに、のろけにしか聞こえない」と実朝は笑い、気晴らしに出かけたいと言い出す。

 和田義盛(横田栄司)の家を訪れ、「ここに来ると、不思議と心が落ち着く」と言う実朝に、泰時が「わかる気がします」と答えると、うれしそうにうなずく実朝。もっとハメを外したほうがいいという義盛が「おもしろいところにお連れしましょう」と言って案内した先は、歩き巫女(大竹しのぶ)のところだった。「おもしろいようによく当たる」という巫女とふたりきりになった実朝は、「悩みがあるようだな」と指摘され、「私の思いとは関わりないところですべてが決まった」と、結婚について投げやりに語る。巫女は「お前さん……」となにかを言いかけた後、「まぁいい」と指摘することを止め、「悩みは誰にもある」と助言を始める。「これだけは言っておくよ。お前の悩みはどんなものであっても、それはお前ひとりの悩みではない。は~るか昔から、同じことで悩んできた者がいることを忘れるな。この先も、お前と同じことで悩む者がいることを忘れるな。悩みというのは、そういうものじゃ。お前ひとりではないんだ。決して」。この言葉に実朝は静かに涙し、「気が晴れたか」と訊かれ、笑顔で応えるのだった。

 SNSでは「作中屈指の名言」「今回はいつもの鎌倉殿と別の意味で泣いた。名言すぎる……」「おばばの言葉が刺さりまくった」といった声が上がるなど、大きな反響を呼んだ。

 この台詞について、阿野全成役でドラマに出演していた新納慎也は、三谷幸喜作のミュージカル『日本の歴史』の劇中歌でも同じことが歌われていたとTwitterで指摘した。19世紀のアメリカ人家族と、日本の歴史を、時空と場所を超えて描き、交錯していくこのミュージカルにおいて、両方の世界で繰り返し歌われる「いつかどこかで 誰かがきっと あなたと同じ悩み抱いてた あなたが悩んでいることは いつか誰かが悩んだ悩み」という歌詞と同じメッセージが『鎌倉殿』にも登場したわけだ。『日本の歴史』のキャストは、新納、シルビア・グラブ、宮澤エマ、秋元才加と『鎌倉殿』とも共通するが、三谷幸喜は巫女を通し、“歴史”という壮大な視点から、12歳の若さで征夷大将軍に就き、鎌倉殿という重荷に苦しむ実朝にメッセージを送りたかったのかもしれない。

 また、この台詞にはもっと具体的な意味が込められている、という見方もある。第34回「理想の結婚」では、実朝が結婚について「私はやはり、そのお方をめとらなければならないのか。後戻りはできぬということか」と北条義時(小栗旬)にこぼす場面があり、また泰時をなんともいえない表情で見つめるシーンもあった。史実の実朝が子をもうけなかったことなどから、ドラマの実朝は泰時に対して特別な感情を抱いているのではないか、という指摘もある

 第35回での泰時との場面での実朝の表情を見るかぎり、実朝にとって泰時が特別な存在である可能性は確かにありそうであり、巫女が指摘しようとして飲み込んだ言葉は、そうしたプライベートな部分であったかもしれないのだ。そう考えると、「それはお前ひとりの悩みではない」という言葉が投げかける意味は、また異なる響きを持つ。特に、G7で唯一同性婚が認められていない現代日本と重ね合わせて受け止めた人も少なくないようだ。

 もっとも、この場面が素晴らしいのは、“そのようにも取れる”というところで留まっている点にある。実朝を演じる柿澤勇人の繊細な演技も、単一の解釈に留めない魅力を放っている。実朝の感情がどういうものか、今後明かされることがあるかは不明だが、この場面の描き方からすると、三谷幸喜はどちらとも受け止められるように意図したように思える。まだ13歳の実朝が胸に秘めている悩みが何なのか、“外野”が決めつけないという配慮こそ、この場面を美しくしているのではないか。そしてだからこそ、多くの視聴者の心に巫女の言葉が響いたのだろう。さまざまな解釈のできるこのシーンは、『鎌倉殿』の名場面のひとつとして大河ドラマ史に刻まれるに違いない。

新城優征(しんじょう・ゆうせい)

新城優征(しんじょう・ゆうせい)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

最終更新:2022/09/17 09:16

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