日刊サイゾー トップ  > 北条時政の追放は義時によるクーデター?
歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『鎌倉殿』では名場面でも…史実の時政追放は「庶子」義時によるクーデターだった?

時政・義時父子の間にずっとあった“微妙な距離感”

『鎌倉殿』では名場面でも…史実の時政追放は「庶子」義時によるクーデターだった?の画像2
北条義時(小栗旬)と時政(坂東彌十郎)|ドラマ公式サイトより

 また、史料に見られる時政・義時父子の間の微妙な距離感は、義時が誕生した時点から時政の庶子として扱われていたことの証である気もします。一方で、宗時は時政から特別視されており、それゆえ嫡男だと考えられます。このことは、北条家の面々が源頼朝とともに参加し、大敗を喫した「石橋山の戦い」での時政の行動からも読み取れます。

 敗走する際、時政は、自分と宗時で二手に分かれるという作戦をとりました。この時、義時は時政に付き従いましたが、『執権』の中で細川重男氏は、それは義時が時政のボディガード役に過ぎなかったからでは、と推察しており、筆者もそれは正しいと考えます。

 宗時を時政の嫡男(=跡継ぎ)だと確定できる一次史料は残されていないのですが、時政と宗時の二手に分かれて逃げたという話は、宗時が嫡男である可能性を示唆しています。北条家当主の時政が逃げ損じたとしても、家督を継ぐことのできる人間が生き延びる可能性をつくったと考えられるためです。そしてもし義時が庶子という扱いではなく、宗時同様に北条家の家督継承権を持っていたのであれば、二手ではなく、三方に分かれて逃走を試みたのではないか……と思われます。史実では二手に分かれた結果、時政と義時は生き残り、宗時は平家方に討ち取られてしまいました(ドラマの宗時は善児に暗殺されていましたが)。

 しかし、時政にとって義時は、宗時を失った後ですら嫡男に格上げすべき存在ではなかったのでしょう。だからこそ、時政は牧の方と再婚し、この新しい妻との間に授かった政範を嫡男の座に据えたのではないでしょうか。

 時政・義時父子の仲が実はあまりよくなかったのでは、と感じさせる逸話は他にもあります。

 寿永元年(1182年)、頼朝が亀の前という侍女に手を出していたことを知った政子が激怒し、亀の前の住まいをぺちゃんこに潰させた事件がおきました。この政子の暴走を止められなかった責任を、仲裁に入っていた牧の方の兄(もしくは父)の牧宗親が取らされ、頼朝の命令により彼の髻(もとどり)が切り取られるという侮辱を受ける結果となりました。

 時政と牧の方はそのとき、身内に対する頼朝の理不尽な仕打ちに怒り、鎌倉から出ていきます。これには頼朝も大いに狼狽しましたが、義時が父・時政に付き従うことなく鎌倉に残っていることを知り、「定めて子孫の護りたるべきか(=私の子供たちを守ってくれるのは義時、お前だ)」などといって、恩賞を与えようとするほど喜びました(『吾妻鏡』)。

 しかし、この時の義時は「畏れ奉る」と一言述べただけでした。そのクールさからは、義時があくまで北条家庶家・江間家の当主として振る舞い、自分の父親が当主となる北条本家のトラブルには巻き込まれたくないから距離を置いているだけ――そう言外に示唆しているように感じられてなりません。

 史実の時政は、牧の方との間に授かった政範を元久元年(1204年)に失ってもなお、義時を嫡男と考えることはなかったようです。興味深いことに、時政は自身の邸(通称・名越亭)を、息子の義時ではなく、孫の朝時(義時の次男で、正室・姫の前との間に生まれた子)に譲っているのです。もし「牧氏事件」がなかったのなら、北条本家は義時を飛び越え、朝時によって継がれた可能性もあるということですね。義時と朝時の父子関係は悪かったとされていますが、細川重男氏はその理由について『執権』の中で、時政が自分より朝時を重用していることに、義時が不満を抱いていたからと推察しています。

 このように考えていくと、やはり義時による時政追放は、庶子による本家の乗っ取り……実質的なクーデターだったと見たほうがよいのかもしれません。そして、この追放劇が描かれた『鎌倉殿』第38回の「時を継ぐ者」というタイトルは、なかなかに意味深だったような気がします。ご存知のとおり、北条家の血を引く男子に受け継がれる「時」の一文字ですが、義時が父・時政から執権職を継承し、絶大な権力を持つようになっていくという意味が大きかった気がします。また、古来より東アジアで「時」を支配するのは皇帝の特権であり、権力の証しでした。後には後鳥羽上皇をも打ち破ることになる義時です。これからの彼が、さらなる覇道を歩んでいくことも意味しているのでしょう。『鎌倉殿』は、「頼朝に似てきた」とされる義時の今後のさらなる変化をどのように描いていくのか、ますます楽しみでなりません。

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堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 12:26
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