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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.713

香川照之14年ぶりの主演作『宮松と山下』 多面体俳優が素顔に戻る瞬間

売れっ子俳優としての“死”を迎えた香川照之

香川照之14年ぶりの主演作『宮松と山下』 多面体俳優が素顔に戻る瞬間の画像2
役を演じている間は何も考えずに済むのが、宮松には心地よかった

 宮松の本名は「山下」であり、職業はタクシー運転手だったらしい。東京にある実家には、年齢の離れた妹・藍(中越典子)が暮らしていた。記憶がはっきりと戻らない状態のまま、宮松は東京へと向かい、藍とその夫・健一郎(津田寛治)から歓迎されることになる。

 実家にある山下の部屋はきちんと整理整頓されており、いろんな野球グローブが飾ってあった。藍によると山下は野球が得意で、草野球ではショート、センター、キャッチャーと試合ごとに異なるポジションを器用に守ったそうだ。健一郎に誘われてバッティングセンターに行くと、体が勝手に動いて、快音を次々と響かせる。また、タクシー運転手を勤めていたのも、目的地を自分で決めなくていいという気楽さからだったらしい。宮松と山下は、確かに共通する部分が多い。

 しかし、なぜ山下は記憶喪失となり、宮松としてエキストラの仕事をするようになったのか? その経緯は思い出せないままだった。宮松を診断した医者(黒田大輔)によると、宮松の心の中で過去を思い出したくないという意識が働いているそうだ。どのきっかけで、宮松が山下としての記憶を取り戻すのかが、このドラマのキーポイントとなる。

 銀座の高級クラブで過去にトラブルを起こしていたことがマスメディアに報じられ、CMや番組の降板が相次ぐことになった香川照之。トラブルが原因で、人生をやり直すことになった俳優役で芸能界に復帰するという皮肉めいた形となった。本作の撮影は2021年9月に行なわれていたが、映画ではこうした現実とフィクションとのシンクロ現象が時折起きる。人気俳優は出演オファーだけでなく、いろんなものを呼び寄せてしまう。

 香川照之は芸能一家としての華やかな家系でも注目を集めがちだが、香川自身はオリジナルビデオ映画『静かなるドン』(91)や単館系のインディペンデント映画などへの出演を長年重ねてきた。西川美和監督の『ゆれる』(06)の助演で脚光を浴びるようになるまで、地道にキャリアを築いてきた。

 ギャンブル映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(09)の顔面演技、高視聴率を記録した『半沢直樹』(TBS系)の土下座シーンなどで大ブレイクした香川だが、派手で分かりやすい演技は消費され尽くし、限界にきていたように思う。高級クラブでのトラブルはそうしたタイミングで発覚した。劇中で何度も死ぬ宮松のように、売れっ子俳優としての香川照之も一度“死”を迎えることになった。

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