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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.718

昭和世代はなぜフィリピンに惹かれるのか? 格差社会の幸福論『ベイウォーク』

昭和世代はなぜフィリピンに惹かれるのか? 格差社会の幸福論『ベイウォーク』の画像1
ケータイ電話を手に、ベイウォークで寝泊まりする赤塚さん

 フィリピンのスラム街で暮らす「困窮邦人」たちの実情をリアルに伝えたドキュメンタリー映画『なれのはて』は2021年暮れに劇場公開され、新宿K’sシネマが連日満席になるなど、予想を上回る反響を呼んだ。普段は映画に興味を持たない人たちの好奇心を、大いに刺激する内容だった。

 粂田剛監督が『なれのはて』に続いて完成させたのが、姉妹編となる『ベイウォーク』だ。フィリピンの首都マニラの観光スポットであるベイウォークで路上生活を送る日本人男性、ベイウォークを見渡す高級マンションで暮らすもう1人の日本人男性。故郷を離れて異国で暮らす、2人の日本人男性の対照的な生活を伝えている。

 まず最初に登場するのは、ベイウォークで野宿する赤塚崇さん(取材開始当時58歳)。日本ではブローカーをしていたが、一攫千金を狙ってフィリピンに渡ったものの、詐欺に遭って全財産を失ってしまった。妻と子どもとも別れていた赤塚さんは日本に帰ることができず、現地のホームレスたちに混じってのサバイバル生活を送るようになった。

 日没時には美しい夕焼けが楽しめるベイウォークだが、夜になるとホームレスたちが海岸線に沿うように1km近く並んで寝ている。海風で蚊が寄ってこない、集団でいることで襲われにくいなどの理由があるようだ。さまざまな種類の野鳥が集まる「混群」を思わせる。『なれのはて』に登場したディープマニラの案内人・安岡一生さんに連れられ、粂田監督は夜のベイウォークで赤塚さんと出会うことになる。

 無一文の路上生活者ながら、赤塚さんは妙に人なつっこく、人間味のあるキャラクターだ。赤塚さんはタガログ語は話せないが、片言の英語で隣にいるホームレス一家とコミュニケーションしている。週末には警察の手入れがあるなど、必要な情報をしっかりと収集している。

 赤塚さんの日常生活は、意外なほど規則正しい。日が昇ると暑くなるベイウォークを朝早くに離れ、街でタバコ売りをしているフィリピン人男性・アシンの仕事を手伝う。といっても、赤塚さんは近くに座って、時折おしゃべりするだけ。アシンが露店を離れる際は、代わりに店番をする。たまにアシンと一緒にご飯を食べることで、なんとか食いつなぐというギリギリの生活を送っている。

 日本=豊かな国という幻想はすでに崩壊してしまったが、それでもフィリピンの下流層から見れば、日本人はまだまだお金を持っているイメージがある。物見遊山で訪れた日本人に対して彼らは容赦なくお金をむしり取ろうとするが、困窮邦人には優しい顔を見せる。タバコ売りのアシンも、赤塚さんの状況を「かわいそう」と日本語で同情する。

 長年にわたって植民地支配が続いたフィリピンには、困っている人には手を差し伸べるという国民性がある。助け合うことで、この島国の下流社会は成り立っているらしい。前作『なれのはて』と同様に、ガイドブックには載っていないフィリピンのディープな一面がありありと描かれている。

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