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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.720

人類史上最もおぞましい再現ドラマ  悪の凡庸さ『ヒトラーのための虐殺会議』

人道的配慮に基づいた最終的解決法

人類史上最もおぞましい再現ドラマ  悪の凡庸さ『ヒトラーのための虐殺会議』の画像2
ナチス親衛隊大将のラインハルト・ハイドリヒが議長を務めた

 ナチス政権下では、すでに1939年から「T4作戦」が実施されていた。身体や精神的な障害を持つ人たちを安楽死させようという政策だ。国家に対して有益な人間だけが生き残るべきだという「優生学」に基づいた考え方が、当時はドイツだけでなく世界中で広く支持されていた。

 この優生学的考えを、より拡大解釈したのが「ユダヤ人問題の最終的解決」だった。ドイツだけでなく、ヨーロッパ中からユダヤ人を排除することで、アーリア人にとっての理想社会をつくろうとヒトラーは本気で考えた。ユダヤ人たちを強制移住させた「ゲットー」はすでに飽和状態となっており、占領国の担当官たちからもユダヤ人に対する早急な対応を求められていた。

 1,100万人いると概算されていたユダヤ人をすべて排除するには、どんな手段が有効なのか。銃殺刑では到底追いつけない数字だ。女性や子どもたちにまで銃を向けることを嫌がるドイツ兵は多かった。PTSD状態に陥り、ドイツ軍全体の士気にも悪影響を与えてしまう。

 そこで考案されたのが「ガストラック」だった。トラックのコンテナにユダヤ人を押し込み、排気ガスを充満させるという処刑方法である。トラックをどこにでも運べるという利点はあるが、排気ガス死させるのに時間が掛かるのが難点だった。

 会議中、何度か「人道的配慮」という言葉が使われる。これはユダヤ人に対してのものではなく、処刑に関わるドイツ兵の精神面を気遣ったものだった。心優しいドイツ兵たちがユダヤ人を大量虐殺しても罪悪感を感じずに済む方法が、会議後半で提案されることになる。

 この画期的なアイデアの考案者こそが、アドルフ・アイヒマンだ。アイヒマンは机上でシミュレートした計画を朗々と説明する。ポーランドにあるアウシュビッツ収容所に、新しい棟を建設する。建設には、収容所で暮らしているユダヤ人たちを使う。新しい密室性の棟で毒ガスを使って大量処理すれば、ハイドリヒが目標に掲げる1,100万人という数字は不可能ではない。また、ユダヤ人たちが処理される様子をドイツ兵は直接見ることはないので、罪の意識を感じずに済む。

 普段は地味で目立たないアイヒマンだが、このときの彼は自分が持てる才能をいかんなく発揮してみせる。会議に参加していた他の高官たちも、アイヒマンの有能ぶりに感心するばかりだった。

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