日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 『イチケイのカラス』と“ラストベルト”問題

『イチケイのカラス』黒木華と竹野内豊続投で見せる日本の“ラストベルト”問題

文=バフィー吉川(ばふぃー・よしかわ)

『イチケイのカラス』黒木華と竹野内豊続投で見せる日本のラストベルト問題の画像1
黒木華と竹野内豊(Getty Imageより)

 ドラマ「HERO」や「リーガルハイ」シリーズ、そして現在放送中の『女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~』など、多くのリーガルドラマを手掛けてきたフジテレビの新たな代表作『イチケイのカラス』がついに映画化し、1月13日より公開中だ。翌日には映画版と直結するテレビスペシャルも放送され、さらに『女神の教室』とのクロスオーバーも実現した。

 フジテレビは『コンフィデンスマンJP -英雄編-』や『劇場版ラジエーションハウス』、『バスカヴィル家の犬』、『沈黙のパレード』、『Dr.コトー診療所』と、去年だけでドラマの映画化作品を5本も公開。2023年に入ってからも本作、そして秋に『ミステリと言う勿れ』の公開を予定するなど、“お家芸”とも言える人気ドラマの映画化スタイルを再加熱させている。

 別にフジテレビに限ったことではないが、地上波で人気があるからといって安易に映画化することには、テレビドラマの延長線上のような作品を量産されたところで、わざわざ料金を払ってまで観る価値があるのかという批判的な意見も多い。

 しかし、そういった批判があることは、フジテレビ側も肌で感じているようで、近年のドラマの映画化作品は、映画としてのクオリティを向上させようという動きがあるように見受けられる(それが成功しているかいないかは別問題として……)。

 本作の監督は田中亮、脚本は浜田秀哉と、ドラマ版のスタッフが続投。映画版ならではのスケール感はあまり感じられないながらも、脚本の良さがそれを補っており、濃厚な人間ドラマと、ドラマ版同様に法の在り方、扱い方の是非を問うものとなっている。

【ストーリー】
入間みちおが、東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称:イチケイ)を去って2年。岡山に異動したみちおが担当することになったのは、主婦が史上最年少防衛大臣・鵜城英二に包丁を突きつけたという傷害事件。事件の背景には、不審点だらけのイージス艦と貨物船の衝突事故があった。だがイージス艦の航海内容は全て国家機密で、みちおの伝家の宝刀「職権発動」が通用しない難敵…!! 一方、坂間千鶴は、裁判官の「他職経験制度」で弁護士に。配属先は奇しくもみちおの隣町…! そこで出会った人権派弁護士・月本信吾とバディを組み、人々の悩みに寄り添う月本に、次第に心惹かれていく…。そんな中、町を支える地元大企業のある疑惑が浮かび上がる……。2つの事件に隠された、衝撃の真実。それは決して開けてはならないパンドラの箱だった!? どうする、みちお……!!!?

法の在り方、法の在るべき姿を模索し続ける葛藤の物語

 法というものは時に人を助けるが、時に人を突き放すものでもある。万能でありながら不安定でもある。そんな極端なものが混在する、おかしなものだ。

 何が正義で、何が正しいのか。そもそも正しいとは誰が決めることなのか。多くを助けるための小さな犠牲は仕方ないのか……。ドラマ版同様に法に近しい立場から、法の在り方、在るべき姿を模索し、葛藤し続ける様子が描かれる。

 黒木華演じる坂間千鶴と竹野内豊演じる入間みちおが、真逆の存在でもあることから、法の不安定さをそれぞれが体現しているようにも感じられるのだ。

 ドラマ版でも、現実にあり得る社会問題を巧みに取り込んできた『イチケイのカラス』が今回扱うのは、工業地帯が抱える深刻な問題だ。

 炭鉱業や工業によって支えられていた町が時代や不景気の波を受けて経済的に死んでしまう。商店街はたちまちシャッター街になり、経済的な復興が絶望的で希望もなく、若い世代はどんどん都会に行ってしまい空洞化が加速する。

 そんな地帯のことを“ラストベルト”と呼ぶ。21年のアカデミー賞でも話題になった『ノマドランド』(2021)や、ドキュメンタリーの『行き止まりの世界に生まれて』(20)などの海外作品でも浮き彫りにされてきた問題だが、しかし、それは遠い海の向こうだけの問題ではない。その一歩手前の町は日本にもあるのだ。

 今作はそんな日本の工業地帯の小さな町で起きた事件の裏に隠されたある事実が、国や地方の闇を浮き彫りにしていく。

 まったく関係がないように思える事件が点と点でつながっていく展開は、ドラマ版同様に健在であり、本作は特に巧妙に伏線が張り巡らされている。

 国から手を差し伸べられず、漏れてしまった人々は、どうやって生きていったらよいのか。そんな絶望感が漂う。この問題を次世代には引き継ぎたくないからこそ起こってしまった事件だと考えると、やるせない気持ちになる。

 現代社会が抱える問題をそのまま反映しているぶん、結末は非常につらいものとなっている。町ぐるみの事件、完全懲悪でないという点では、ドラマでは『沈黙のパレード』(22)や、他局(TBS系)ではあるが『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』(22)などでも扱っているが、団結力が強いからこそ生まれる心の闇というのは、何度観てもイヤなものだ。

『イチケイのカラス』
監督 : 田中亮
脚本 : 浜田秀哉
出演 :竹野内豊、黒木華、斎藤工、山崎育三郎、柄本時生、西野七瀬、田中みな実、桜井ユキ、水谷果穂、平山祐介、津田健次郎、八木勇征、尾上菊之助 宮藤官九郎、吉田羊、向井理、小日向文世ほか
原作 : 浅見理都「イチケイのカラス」(講談社モーニングKC刊)
主題歌:Superfly「Farewell」(UNIVERSAL SIGMA)
製作 : 映画「イチケイのカラス」製作委員会
配給 : 東宝
公式サイト : https://ichikei-movie.jp 

バフィー吉川(ばふぃー・よしかわ)

バフィー吉川(ばふぃー・よしかわ)

毎週10本以上の新作映画を鑑賞する映画評論家・映画ライター。映画サイト「Buffys Movie & Money!」を運営するほか、ウェブメディアで映画コラム執筆中。著書に『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房/2021年)。

Twitter:@MovieBuffys

Buffys Movie & Money!

最終更新:2023/01/19 13:00

『イチケイのカラス』黒木華と竹野内豊続投で見せる日本の“ラストベルト”問題のページです。日刊サイゾー芸能最新情報のほか、ジャニーズ/AKB48/アイドル/タレント/お笑い芸人のゴシップや芸能界の裏話・噂をお届けします。その他スポーツニュース、サブカルチャーネタ、連載コラムドラマレビューインタビュー中韓など社会系の話題も充実。芸能人のニュースまとめなら日刊サイゾーへ!

ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ

アイドル・お笑い・ドラマ…ディープなエンタメニュースなら日刊サイゾー

  • facebook
  • twitter
  • feed
イチオシ企画

「クリティカル・クリティーク 」気鋭の文筆家によるカルチャー時評

フィメール・ラッパーをはじめ、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆気鋭の文筆家・つやちゃんによるカルチャー時評
写真
特集

宇多田ヒカル「First Love」とアジアの“青春”

 私たちの“青春”は、何度でもリプレイされ続ける。  Netflixにて全世界独占配信中のオリジナルドラマシリーズ『First Love 初恋』...…
写真
人気連載

「ルフィ」の“賢すぎる”手口

今週の注目記事・第1位「全国連続強盗予告した...…
写真
UPCOMING

クリエイティブな次世代モデル・MONICA

 アップカミングなあの人にインタビューする連載「あぷ噛む」。第1回目は、モデルのMONICAにインタビュー。11月とは思えないほど暖かいある日の昼...…
写真