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足立正生監督インタビュー

足立正生監督が描く「宗教2世」の苦悩 追い詰められし者の決起『REVOLUTION+1』

母親のことを憎み切れなかった山上

足立正生監督が描く「宗教2世」の苦悩 追い詰められし者の決起『REVOLUTION+1』の画像6
写真/石田寛

――昨年末から上映されている75分の完全版では、上映時間50分だった緊急上映版にはなかったシーンが加わり、ドラマ性が強まったものになっています。

 最初から撮影はしていたんですが、イベント上映版にはあえて入れず、シンプルなものにしていたんです。完全版は主人公がなぜ決行したのか、ちゃんと分かるようにしています。僕はね、山上はマザコンだったと思うんです。母親との切っても切れない関係をね、完成版には入れています。

――山上が犯行直前に見たであろう事件現場に向かうまでの風景も、完全版には描かれています。足立監督が撮った『略称・連続射殺魔』を彷彿させました。

 そう? あれも最初から撮っていたシーン。『略称・連続射殺魔』は永山則夫が見てきた風景だけを撮ったドキュメンタリー映画だったけど、今回はタモト演じる川上が決行するところも撮っています。川上が決行する直前に何をするのかは考えました。ブルーハーツの曲をもう一度歌うのか、それとも何か音楽を流すのか。これから撃つぞ、決行するぞ、という人間が音楽を聴いて心を落ち着かせるなんてインチキ映画は、日本の青春映画だけですよ。何か決行すると決めたときは、自分自身を確かめようとするだけです。タモトもいい芝居をしてくれました。決行シーンは、僕からは演出することはありませんでした。

永山死刑囚との共通点と違い

――安倍元首相を射殺した山上徹也容疑者、4人を無差別射殺した永山則夫死刑囚、どちらも幼い頃からの家庭環境に問題があったことが共通しています。

 そうです。貧困、家庭崩壊。それから母親の愛を求め続けたけれど、母親に捨てられてしまった。さらに永山の場合は故郷の北海道網走に帰っても、どこにも居場所がなかった。母親の喪失、故郷の喪失……。そういう点では、永山のほうが喪失感は大きかったかもしれない。ただし、山上の場合は、家族をなくした喪失感が長年にわたって続いた。永山の場合は怨恨にはならなかったわけだけど、山上の場合は怨恨にまでなっていったんじゃないかな。

――犯行当時、永山死刑囚は19歳、山上容疑者は41歳でした。

 年齢の違いは大きかったと思います。今回、山上と永山はパラレルな関係として描こうという狙いはありました。2つの事件には共通点があった。個人的な決起という点でね。永山の場合、追い詰められて追い詰められて、銃を撃ったわけです。山上も追い詰められて追い詰められたわけだけど、長年にわたる状況が身に染み込んでしまい、いろんな縛りから抜けようと思っても抜け出せれず、何もない空洞状態になってしまっていた。劇中でトーテムポールみたいなものに川上が「俺は奴隷じゃない!」と殴り掛かるシーンがあるけど、川上が殴っているのは自分自身なんですよ。

――足立監督は「山上はテロリストではない」と言われていますが、今回の映画のタイトルには「revolution(革命)」と付けています。

 私怨での犯行だから、山上はテロリストではありません。でも、僕が撮る映画だから、政治的な問題も引き受けざるを得ない。「この映画の主人公は革命家か?」と問われれば、彼は革命家以前の存在ですよ。なおかつ、今の世の中で「これが革命の第一歩だ」なんてことは言えません。でも、ここから何か始めなきゃいけないという意味での「+1」なんです。過去の暴力革命はもう終わっている。これは革命ではないかもしれないけど、底が抜けた状態の世界で、しかも真綿で首を締められるような閉塞感の強い管理ファシズムの中で生きているわけだけど、そこから新しい何かを始めることを考えてほしいという気持ちを込めてのタイトルなんです。

――新作の予定はありますか?

 もちろん、あります。宗教2世の人たちからは『REVOLUTION+2』をつくってくださいと言われているんですが、それにはどう答えようかと悩んでいます。できれば、この映画の続きは、若い人に撮ってもらいたいなと思っているんですよ。

『REVOLUTION+1』
監督・脚本/足立正生 脚本・キャスティング/井上淳一 音楽/大友良英
出演/タモト清嵐、岩崎聡子、髙橋雄祐、紫木風太、前迫莉亜、森山みつき、イザベル矢野、木村知貴
配給/太秦 3月11日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©REVOLUTION +1 Film Partners
revolutionplus1.com

足立正生監督が描く「宗教2世」の苦悩 追い詰められし者の決起『REVOLUTION+1』の画像7
足立正生(あだち・まさお)
1939年北九州市生まれ。日大芸術学部在学中に映画を撮り始め、若松孝二監督のプロダクション「若松プロ」で『堕胎』(66)、『女学生ゲリラ』(69)などを監督。大島渚監督が設立した「創造社」で『新宿泥棒日記』(69)などの脚本に参加。ドキュメンタリー映画『略称・連続射殺魔』(69)の監督・製作も務めた。若松孝二との共同監督作『赤軍―P.F.L.P・世界戦争宣言』(71)の上映後、1974年より日本赤軍に合流し、国際指名手配される。97年にレバノンで逮捕され、2000年の刑期満了後に日本に強制送還された。近年の監督作に『幽閉者 テロリスト』(07)、『断食芸人』(16)。俳優として『TOCKA[タスカー]』(現在公開中)などに出演している。

最終更新:2023/04/07 16:11
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