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『罠の戦争』鷲津が最後に仕掛けた「正義の罠」…“新たな竹”の誕生を感じさせる結末に

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FOD配信ページより

 “罠”という言葉から連想するのは、誰かを貶める手段だ。ただ、それが自身の利ではなく、苦しめられている弱者を救うために仕掛けられているとしたら……。3月27日に最終話を迎えたカンテレ制作・フジテレビ系列放送の月10ドラマ『罠の戦争』は、主人公・鷲津亨(草彅剛)の決意に込められた正義の在り方を考えさせられる放送となった。権力に憑りつかれた代議士に残されたダークヒーローとしての道を全うする姿に、鷲津の変化を追ってきた視聴者は涙したことだろう。

 永田町で繰り広げられる政治バトルを描いた本作品。日々のニュースで目にする政治の裏側、ともすると一般市民にとっては周知のことと言えるドロドロとした利権争いが主題のため、「まあ、政治ってそういうものだよね」と観ていた視聴者もいるはずだ。最終話で感じたのは、私利私欲にまみれたぬかるみを歩いてきた鷲津は疲労困憊していたということだ。息子の転落事故の隠蔽に関わった元民政党幹事長・鶴巻憲一(岸部一徳)をはじめとした政界の悪人への復讐を果たした時点で、代議士を辞職する、または国民第一の政治スタンスを貫いていれば、自身が傷つくことはなかった。そこで立ち止まれなかったのは、鷲津自身が悪人に巣食っていた“権力の魔力”に魅了されていたからなのだ。

 自身に降り注ぎ続ける火の粉を払いきれず満身創痍の鷲津。そんな政界の弱者に手を差し伸べた内閣総理大臣・竜崎始(高橋克典)の思惑に気づけたのは、昔から支え続けてきた仲間を信じることができたからだ。国会議員としてのイスを守るには、もはや竜崎の傀儡として生きる道しかない鷲津は、一時は親友の鷹野聡史(小澤征悦)を裏切り、陥れようとするまでに落ちるかに見えた。かつて理想に描いていた「弱い者のために力を振るう」善良な政治家の道だけでなく、人の道までをも踏み外そうとする鷲津があと一歩のところで踏みとどまれたきっかけは、妻・可南子(井川遥)が離婚届を突きつけるという荒療治だったかもしれない。ただ、そこで己が鶴巻に言われたように「権力という魔物」に魅了されてしまっていることを自覚し、そこから脱しようともがき出せたのは、息子・泰生(白鳥晴都)の存在が大きかったのではないか。

 第10話では、疑心暗鬼に陥るあまりに鷹野を疑い、出世した自分を羨んでいるのだろうと言って「苦労知らずの二世議員」呼ばわりし、鷹野を激高させた鷲津。そんな様子を見て「どうしちゃったのよ」とたしなめようとした妻の可南子にまで苛立ちをぶつけ、鷲津は可南子をも怒らせる。そんな鷲津に、かつて父親を尊敬していた息子・泰生(白鳥晴都)からも「かっこ悪ぃよお父さん。最低」と軽蔑されてしまう。その後、多忙な鷲津が泰生と関わるようなシーンはなく、離婚を決意した可南子から、泰生が可南子についていくことを決めたこと、鷲津が変わり果ててしまったのは自分のせいだと言っていたことを聞いた鷲津は、下校中の泰生に接触しようとする。そこで目撃したのは、同級生へのいじめを勇気を出して制止し、助けられた同級生から「ありがとう。すごいね、鷲津くん」と言われると、かつて泰生に対して自分が言っていたように「別に、普通でしょ」と返す泰生の姿だった。泰生の中には、尊敬していたかつての父親の信条がまだ生きていた。最終話のハイライトとなった“竜崎降ろし”を決意させたのは、鷲津が忘れかけていた正義が泰生によって目覚めたからだろう。本作の名シーンのひとつとして推したい。

 第10話で、鷹野が鷲津に相談しようとしたのは、まさにその竜崎の件だった。竜崎は女性関係で地元の反社会的組織の人間ともめ、その解決のために別の反社に1億円を払って仲介を依頼し、以来、その反社との関係が続いており、公共事業の斡旋をしていた。鷹野は週刊誌記者の熊谷由貴(宮澤エマ)と共に、この疑惑を追及していたのだった。鷲津に罵倒されても、変わらず鷲津に自分の狙いを打ち明けた鷹野は、鶴巻を引退にまで追い込んだ鷲津の覚悟に「負けていられない」と思ったと告白する。そんな鷹野の想いを、表向きは“竜崎派”として聞き流し、その場を立ち去った鷲津だったが、実はすでに竜崎の言いなりにならないと決めていた。竜崎の秘書官である猫田正和(飯田基祐)に監視されているのに気づき、あえて鷹野と決裂していることを演出し、見せつけたのだった。翌日、鷹野のもとをひっそり訪れ、真意を明かした鷲津は「最後のでかい罠」を提案する。

 可南子との離婚を成立させたうえで鷲津が仕掛けたのは、すべてを白日のもとに晒す、“自爆”ともいえるものだった。鷲津はテレビの生中継、そして熊谷の協力による生配信を通して、自分が選挙違反の過ちを犯したことを告白し、「力に酔って、善人になったつもりが、取りつかれていただけだ。力に、権力に」と言って、自分に都合の悪い記事を握りつぶしたこと、自分への汚職疑惑を秘書のせいにしようとしたことなどを認める。そして、竜崎にストップをかけられていた鶴巻の汚職を暴露し、さらに竜崎と反社の関係までぶちまける。妨害しようとする猫田の姿までもが配信されるなか、鷲津は「秩序が壊れる? 国が乱れる? ガス抜きのためにまた総理を変えなきゃならならい? 何が秩序だ! この程度で壊れるぐらいのものなら、壊れればいい」「不正を隠ぺいしてまで守らなきゃならない? そんな政治なんて、壊れちまえばいいんだよ!」と叫ぶ。腐敗した権力への怒り、そして自らもそんな権力そのものになってしまったことへの後悔を訴えた鷲津は、千葉県警にみずから足を運び、自首するのだった。

 「国政を混乱させたこと」の責任を取って、竜崎は総理大臣を辞任することになったが、結論から言えば、鷲津の“自爆”は何の変化も起こせなかった。引退後も鶴巻は政治の“秩序”を守る存在として居座り続け、鶴巻の傀儡が新首相に。竜崎も反社との関係をただされることはなかったようだ。だが、花を咲かせて竹が枯れても、古い竹やぶがなくなることで日当たりがよくなり、新しい竹が芽を出すことで再生していくという説があるように、永田町の一端は鷲津の“正義の罠”によって枯れ果て、そこには弱者に寄り添うことを誓って代議士となった可南子の姿があった。

 鷲津の元妻として可南子はあからさまな嫌がらせを受けるが、可南子の後ろ盾には元厚生労働大臣の鴨井ゆう子(片平なぎさ)がおり、鷹野が味方し、鷲津の有能な秘書だった蛍原梨恵(小野花梨)も秘書として支えることになる。そして空いていた政策秘書の座に立候補したのは、証拠不十分で選挙違反について立件を逃れた鷲津だった。ミイラ取りがミイラになってしまった鷲津のように、可南子もまた正義を貫こうとするうえで権力という魔物に誘惑されることもあるかもしれない。だが、鷲津の“破滅”を目撃した周囲の人たちにとって、それは厳しい教訓となったはずであり、何より鷲津自身が身をもって体感したことだ。可南子は鷲津の支えを受け、「より強い、新しい竹」となるだろう。全11話を通じて描かれた鷲津亨の物語は、“代議士・鷲津”としてはビターな結末を迎えたが、しっかりと希望を感じさせる最終回でもあった。

■番組情報
月曜ドラマ『罠の戦争
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:草彅剛、井川遥、杉野遥亮、小野花梨、坂口涼太郎、白鳥晴都、小澤征悦、宮澤エマ、飯田基祐、高橋克典、片平なぎさ、岸部一徳 ほか
脚本:後藤法子
音楽:菅野祐悟
主題歌:香取慎吾×SEVENTEEN「BETTING」(Warner Music Japan)
プロデューサー:河西秀幸
演出:宝来忠昭
演出・プロデューサー:三宅喜重
製作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/wana

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/03/28 12:00
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