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紀里谷和明監督インタビュー

“映画監督”紀里谷和明、最後のインタビュー 『世界の終わりから』と20年の闘いを語る

日本のことを想い続け、嫌われ続けた20年間

“映画監督”紀里谷和明、最後のインタビュー 『世界の終わりから』と20年の闘いを語るの画像2
政府の特別機関の男を名乗る毎熊克哉

――本当に『世界の終わりから』が最後の監督作になるんでしょうか?

紀里谷 最後の作品とは言っていますが、実際には米国で企画を準備中のものがひとつあり、これはまだ成立するかどうか分かりません。まぁ、言えば言うほど僕は嫌われてしまうのですが、日本で映画を製作し、ビジネスとして成立させるのは難しいことを痛感しています。映画を劇場公開しても宣伝費を回収するのが精一杯で、配信やDVDになってようやく制作費が回収されるかどうか。僕から見ると、日本の映画界はビジネスとして成立しているとは言い難いですよ。今の日本映画は、漫画原作しかないわけでしょう? 漫画原作が日本の映画界を支えていることは分かるし、それを僕は批判するつもりもありません。でも、本当にそれでいいのかなと思うわけです。

――主人公のハナがひとりぼっちで、世界に絶望している姿は、紀里谷監督自身の心情が投影されているようですね。

紀里谷 そうです。それに僕と同じように、みんなも感じていることだと思います。日本人って、ずっと裏切られ続けてきた国民だと思うんですよ。

――裏切られて続けてきた国民ですか?

紀里谷 これまでずっと頑張って、いい大学に入るために受験勉強して、いざ卒業してみると就職氷河期でどこにも就職することができなかった。政治家たちは次々と変わり、公約が守られることはありません。マスメディアは公平だと言いながら、公平ではない。あらゆるものから裏切られ続けているんです。僕も日本のことを想い続けて、この20年間頑張ってきたけれど、結局は嫌われてしまった。僕だけじゃなくて、多くの人が感じていることだと思います。

――いくら努力しても報われず、多くの日本人が疲弊しているのは確かです。

紀里谷 努力という言葉、今の時代はタブーでしょう。根性という言葉は、ブラックワードになってしまった。情熱という言葉も消えてしまった。情熱を持って何かをやり遂げるということが、今の社会では「悪」になってしまった。もてはやされているのは懐古主義だけになってしまい、未来に向かって物づくりがされていない。こういうことを言うから、また僕は嫌われてしまう(苦笑)。

事務所的な匂いを排したキャスティング

――『世界の終わりから』について聞かせてください。これまでの華やかなオールスターキャスト作に比べると、通好みな配役ですね。社会派映画『空白』(21)や『さがす』(22)での演技が高く評価された伊東蒼、単館系の作品で活躍する毎熊克哉、Netflixドラマ『今際の国のアリス』で体を張っていた朝比奈彩といったこれからが楽しみなキャストが多い。

紀里谷 キャストだけでなく、スタッフも事前に一度面談をして、僕の考えを伝えて、「それでもいい」と答えてくれた人たちと組んでいます。いわゆる事務所的な行政が、僕は大嫌いなんです。誰がランクが上だとか下だとか。そうした事務所的な匂いがすることは排しています。実力主義だし、本当にいいものを創りたいと思っている人たちに集まってもらっています。俳優部、撮影部、照明部……、みんな同じ立ち位置で参加してもらっています。日本の映画界は事務所の力が強いというけど、じゃあそれに対して何か策を講じたのですかと。今回は撮影期間が1カ月と限られた制約がありましたが、奇跡的に撮り切ることができました。

――日本のインディペンデント映画なら撮影期間1カ月は普通かもしれませんが、これまでの紀里谷監督作品に比べると非常にタイトなんですね。

紀里谷 「神がプロデューサーだ」と僕は思っています。監督が思うような完璧なキャスティングは不可能だし、ロケ地もイメージとは違ったものになってしまいがちです。今回は伊東蒼さんが高校に通っていたため、彼女の夏休みに合わせての撮影になったんです。撮影期間が1カ月というのは、そのためです。キャストもスタッフも、その1カ月に合わせて集まってもらったわけですが、結果的にはこれ以上はないキャスティングになったし、当初の予定から変わりましたがロケ地も最適な場所になったと思います。

――米国時代から親交のあった岩井俊二監督が、ハナの通う高校の教師役で出演しています。

紀里谷 岩井さんにはいつも脚本ができた段階で、いちばん最初に読んでもらっているんです。今回の脚本はすごく褒めてもらいました。キャスティングしたばかりだった毎熊くんも呼んで、岩井さんと3人で食事をしたんですが、岩井さんの『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)に僕は役者として出ているのに、岩井さんはまだ僕の作品には出ていない。これはフェアじゃないと言ったんです。それで岩井さん「分かった」と言って、教師役で出ることを了承してくれた(笑)。僕と岩井さんは、撮っている作品はまったく異なるけど、映画に対する核になる考え方は通じるものがあるんです。現場には無駄な人間はいないほうがいいとか、考え方が似ているんです。作風に関しては岩井さんは印象派、僕は表現主義といったところでしょうね。

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