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『ペンディングトレイン』赤楚衛二演じる“理想のヒーロー”優斗の危うさ

『ペンディングトレイン』赤楚衛二演じる“理想のヒーロー”優斗の危うさの画像
ドラマ公式サイトより

 4月28日、山田裕貴主演のTBS系金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』の第2話が放送された。電車の一部車両が車両ごと荒廃した世界にワープし、乗客たちが極限下を懸命に生きる姿を描くヒューマンエンターテインメントとなる本作は、特撮ドラマ出身の俳優が多く出演しているのも特徴だが、特に消防士の白浜優斗役の赤楚衛二の演技から漂うヒーロー感は頼もしくもあり、少し悲哀を感じる複雑な表情が印象深かった。

 初回放送では、見知らぬ場所に車両ごとワープした乗客たちの戸惑いが描かれるなかで、2023年の春から、30年後の未来に飛ばされた可能性も浮上。そこに自動販売機の補充員・長谷部健一(竹森千人)が現れ、運んでいたカートが誰かに盗まれたと主張するところで終わっていた。

 第2話は、極限状態を生き抜くために、まず何よりも重要な水の確保をめぐる物語に。大量の飲み物が入ったカートの行方、そして森のどこかにあるであろう水源を探しながら、一方で喉が乾き精神的に追い詰められる乗客たちの衝突が描かれ、それぞれの人間性や事情も明らかになってきた。

 第1話でカートを発見していた萱島直哉(山田裕貴)だが、直哉が発見した場所に戻ると、すでに飲み物は無くなっていた。乗客たちの中で疑心暗鬼が広がるなか、盗んだのは田中弥一(杉本哲太)だと判明。家庭で抑圧されていた田中は、見知らぬ世界にワープしたことで“自由”を手に入れたと考え、徐々に“解放”されていっていたが、第2話では周囲の迷惑も気にせず「およげ!たいやきくん」を朗々と歌いながら痛む歯を抜くための糸を紡いだり、飲み物を自分が隠し持っていることで他の乗客たちに高圧的な態度を取ったりと暴走が止まらなかった。

 しかし美容師の直哉はハサミを手に田中に襲いかかり、あっという間に立場が逆転。「一線を越えるやつはこういう目に遭う」と見せしめのために暴行しようとするが、「みんなを助ける」という信念の白浜優斗(赤楚衛二)が遮る。話し合いでの解決を訴える優斗に従い、直哉は田中を追い出すかどうか多数決で決めようと提案。優斗は田中にもう二度としないと謝罪させることで、田中を許す流れに持っていく。乗客の意見は割れるが、優斗を慕う畑野紗枝(上白石萌歌)もまた「二度としないと約束してください」と田中に求め、今までどおり田中を車両に置いておくことで決定した。田中の行動は、追い詰められた人間の愚かさや弱さをわかりやすく表現したシーンだったといえるだろう。

 「信頼し合わなきゃ助からない」という優斗と「疑わなけりゃ助からない」という直哉の対立は続くが、森の中で水源を見つけたことで、張り詰めていた糸は少し緩む。これで命がつながりそうだと安堵したものの、しかし、崖の上で優斗が見たのは、何の建物も見当たらない荒涼と広がる大地と、はるか遠く、海に浮かぶ富士山の姿だった。優斗が録画した“見知らぬ日本”の光景に、車内は絶望に包まれる。混乱した寺崎佳代子(松雪泰子)は夫と娘に会いたいと外へ飛び出し、自分が生き残るためには手段を選ばない渡部玲奈(古川琴音)も「あんたたち、みんな嫌いだった!」と叫びながら泣き出す。それぞれの持っているスマートフォンのバッテリーは切れていく。誰もが諦めの境地に差し掛かりながら車内で就寝する夜、森で用を足していた田中の頭に、ペットボトルのフタが落ちてくる。空を見上げると、そこにはオーロラが広がっていた。さらに田中の背後に怪しい人影が現れたところで第2話は幕を閉じた。

 今回、明らかになったのは、直哉たちがワープした先は確かに日本のようだが、すっかり変わり果てていること。そして元の2023年では、5号車と6号車の2両とその乗客132名が忽然と姿を消したことと、警察が捜査にあたるも何の手がかりも掴めずにいる状況にあるということだった。まだ第2話ということでワープ絡みの謎についてはまだまだ分厚いベールに包まれたままだが、そのなかで見どころとなるのは、乗客同士の人間ドラマだ。

 特に、物語を動かしていくのはやはり、直哉と優斗の対立だろう。極限状態の中で、正義感が強く誰に対しても優しい人物と、どこか飄々とした現実主義者が居合わせる構図はどこか『ぼくらの勇気 未満都市』(日本テレビ系、1997年)っぽくもあるが、本作の場合、優斗が“理想のヒーロー”になろうと懸命になっている姿に、一抹の不安を覚える。

 正義感あふれる消防士であり、火事の現場で自分を助けようとして半身不随になった先輩消防士と「1人でも多くの命を救う」と約束したことから、この極限の状況下でも全員を救おうと使命感を持って率先してリーダーシップを発揮しているが、互いを信じあって協力しあおう、問題はすべて話し合いで解決しよう、と訴える理想主義的な優斗が、どこかで孤立してしまいそうに感じるのだ。実際、田中の処遇をめぐる多数決では、優斗の考えが“多数派”となったものの、わずか1票差という僅差であり、第2話の時点ですでに優斗の優しすぎる方針を支持しない人たちが少なくないことを示していた。そして第2話終盤では、ひとりトンネルの中で、寮の近くにあったお好み焼き屋と思しき場所で仲間たちと写った写真を見返しながら、好きな女性への思いをめぐらせていた。しかしそれは、優斗が自分の弱さを他人に見せられないということでもある。乗客の誰かに、優斗の信念をあざ笑うかのような決定的な裏切りをされでもしたら……。「綺麗事」ばかりを並べているようにも見える優斗には、どこか危うさがあるのだ。

 水を確保した直哉たちだが、第3話では食料問題が起こるようだ。ワープした先では再び疑心暗鬼が深まる一方、予告映像では2023年の警察側のセリフと思しき気になる情報が。何かの事件の犯人と「よく似た特徴の男」、「車両にいたことは確実」なのだという。また、直哉との対立の中で優斗が「俺は弱いから……そう思わないと踏ん張れない」と吐露するシーンもあるようだ。ますます「極限」に近づくなか、どんな展開が待ち受けているのか。連休中でも見逃せない第3話は今夜22時放送だ。

■番組情報
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と
TBS系毎週金曜22時~
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)、日向亘、片岡凜、池田優斗、宮崎秋人、大西礼芳、村田秀亮(とろサーモン)、金澤美穂、志田彩良、白石隼也、濱津隆之、坪倉由幸(我が家)、山口紗弥加、前田公輝、杉本哲太、松雪泰子 ほか
脚本:金子ありさ
音楽:大間々昂
主題歌:Official髭男dism「TATTOO」(ポニーキャニオン/IRORI Records)
プロデューサー:宮﨑真佐子、丸山いづみ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹、井村太一、濱野大輝
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:tbs.co.jp/p_train823_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/05/05 12:00
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