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イ・ランの生命を担保にする(反)社会実験-1.5

イ・ランとジュンイチとヘンサ、ソウルの車事情~連載再開のちょっとしたおしゃべり

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 韓国と日本をまたにかけ、シンガーソングライター、作家、イラストレーター、映像作家としてさまざまな表現活動を行うアーティスト、イ・ラン。

 そんな彼女が“コロナ禍にできる新しい挑戦”をテーマに掲げたインタビュー連載『イ・ランの生命を担保にする(反)社会実験』は2021年6月に始動してしたが、第0回と同年8月に第1回を掲載したのち、彼女の一身上の都合により休止を余儀なくされていた。

 行動規制も緩和され、日韓の往来も再開されてしばし経った2023年2月、こんなLINEのメッセージが届いた。

<イ・ラン:こんにちは、お元気でしたか?>
<イ・ラン:皆さんの状況がどうなのか気になります。一緒に話す日を決めましょうか>

 かくして長い休載の末、ZOOM越しの再会を果たした我々による、とりとめのないやり取りを連載“第1.5回目”としてお送りする。

“社会実験”は続くよ

──こんにちは! お久しぶりです。

イ・ラン:ふふふ、お久しぶりです!

──ランさんから「連載のお話をしませんか?」と連絡をいただいて、うれしかったです。

イ・ラン:『イ・ランの生命を担保にする(反)社会実験』をお休みしている間、本当にいろいろなことがあったので、この連載の趣旨についてすっかり忘れてしまっていたんです。そこを、もう一回確認して思い出したいなって。

──もともとこの連載が始まったのは、新型コロナウイルスの感染が拡大している時期でしたよね。韓国でも日本でも自粛要請が出ている状況下だったので、コロナ禍にできる新しい挑戦=社会実験を試みるという趣旨だったと思います。

イ・ラン:そうでした。でも最近では、当時よりも家から出られるようになったし、海外へも行けるようになってきて、状況が変わってきましたね。だから連載の趣旨もちょっと見直さなきゃいけないかもしれないですけど、私自身はそういう変化に関係なく“社会実験”を日常的にやっているので、この連載を続けていけると思って。

──パンデミックの影響にかかわらず、ランさんの“社会実験”は続いていたわけですね。

イ・ラン:はい。例えば最近、前まで使っていた作業場を引き払ったんですよ。ジュンイチ(愛猫)の体調が良くないので、付きっきりで看病しなきゃいけなくて。だから自粛要請がなくても、私は外に出られなくなってしまったんです。

──なるほど……ジュンイチも高齢になって。

イ・ラン:そうです。看病がすごく大変です。家で毎日、薬を飲ませたり、注射しなきゃいけないので、遠いところには行けなくなってしまって。

──家を空けられないから、断らないといけない仕事も多いわけですか。

イ・ラン:うん。ちょっと遠くても、日帰りで帰ってこれそうな仕事があったら引き受けたりもしていますが、当日にジュンイチのコンディションが悪くなったりしたらキャンセルしていますし。でもお金を稼がなきゃいけないから、お仕事もしないとダメで……ヤバい。

──ジュンイチを生かすために家にいたいけど、生きていくためには外に出ないといけない。ご自宅でできる、執筆業はいかがですか。

イ・ラン:原稿も書いているんですけど、いくつかの本を同時進行で執筆するのって混乱するからすごく苦しいんですよ。あと、原稿を書いているときはリアルタイムにお金が発生するわけでもないし。

──執筆したものが本になってお金が入ってくるまでに、だいぶ時間のラグがありますもんね。金銭的なスケジュールが見えづらいと、生活に対しても不安になるから、精神的につらくなってきます。

イ・ラン:そうですね。ジュンイチの病院代はリアルタイムに払わなきゃいけないから。そういう意味では、「ヘンサ(행사)」 のお仕事が助かりますね。

──「ヘンサ」。それはどんなお仕事なんですか?

イ・ラン:「ヘンサ」は韓国語で行事とかイベントっていう意味なんですけど、音楽業界では「営業仕事」を指す言葉として使われています。例えば、どこかの地域の『〇〇祭り』のイベント会場に行って、10分くらい歌うとか。それは一番早くお金になりますね。パンデミック直後は「ヘンサ」が一切なくなってしまって、そのときに初めて、私の収入の半分以上が「ヘンサ」からくるお金だったんだって気づきました。

──金銭的にはとても助かりそうですよね。

イ・ラン:その代わり、つらいところもある仕事です。見に来ている人に私の音楽を紹介するというよりも、ただその場の雰囲気を盛り上げるためだけに音楽を道具として使うことが求められるから。前に、どこかの会社で会長をやっている人の誕生日のパーティーに呼ばれたときは、自分の曲の演奏中に「そんな誰も知らない曲じゃなくて、皆が知ってるクリスマスキャロルを歌え」と言われたことがありました。

 もちろん、私に歌ってほしいと呼んでくれて、集まった人がちゃんとリスペクトしながら聴いてくれるような現場もありますけど……そうじゃない場合がほとんどですね。

──それでも「ヘンサ」に行かなきゃいけないときもあるわけですね。

イ・ラン:そうです、超行きます。昨日も行ってきましたよ。お金のために。

 でも、自分がどんな人なのか誰も気にしていない人たちのために歌うのは、ストレスが溜まります。だから「ヘンサ」のとき、ソウル(魂)は家に残して行きます(笑)。ソウル(魂)の仕事って、なんでお金になるものが少ないんだろう。

──最近ではイベントも開催されるようになってきて「ヘンサ」の依頼も増えてきているからこそ、そういったジレンマを改めて認識したのかもしれませんね。

イ・ラン:はい。パンデミック後も挑戦ばかりですよ。

車に乗って、見えること

──前回(2021年8月)この連載でお話をしたときは、ちょうどランさんが自動車免許の教習所に通っている時期でしたよね。「実技試験に落ち続けていて、本当にうんざり」とおっしゃっていましたが、その挑戦はどうなりましたか。

イ・ラン:あのあと、無事に試験に合格して、今は運転免許を持っているんで、車で仕事に行けるようになりました! めちゃめちゃ運転しています。

──ランさんが車の免許を取得しようと思った理由について、ご知人の「女は車を運転してるときに自由になる」という言葉が気になったから、とお話されていました。車を運転すると道路の上に自分だけの空間ができるからこそ、女性に抑圧的な社会から開放されるものがあるのではないか、と。

 一方で「ドライバーが女性だとわかると喧嘩をふっかけてきたり、無視したりする人も多いみたいなので、やはり完全な自由はない」ともおっしゃっていましたね。

イ・ラン:そうそう。私、今お姉さんからもらった車に乗っているんですけど、それを運転していて気づくことも多いです。

──お姉さんの車を相続されたんですね(2021年、イ・ランの実姉イ・スルさんが逝去。翌22年、イ・ランは彼女に捧げる曲「生きることと眠ることとお姉ちゃんと私(PRIDE)」を発表した)

イ・ラン:そうです。「生きることと眠ることとお姉ちゃんと私(PRIDE)」の中に「大きな車に乗って」という歌詞がありますけど、私がもらったのはその「大きな車」じゃなくて、別のちっちゃい車なんですが。

──ソウルで運転することも多いでしょうから、都市部の移動には小さい車のほうが小回りがきいて便利そうです。

イ・ラン:それが、そんなこともないんですよ! ソウルって、道が狭いし駐車スペースも小さいわりに、大きい車に乗っている人がすごく多いんです。その理由は、みんな車のサイズで自分の権力を示そうとしているから(笑)。

 特に女性ドライバーはナメられることが多いから、SUVみたいにゴツい車に乗っている人が多いですね。とにかく見た目がマッチョな車に乗りたがるんです。なので、私みたいにちっちゃい車に乗っていると、すごく無視される。それが超バカバカしくて、おもしろいんですよ(笑)。

 そういう社会の問題や新しい発見に出会うことが本当に多いので、車に乗ることも“社会実験”なのかも。まだまだお話したいことがたくさんあります。

──今日は連載の打ち合わせと近況報告だけのつもりが、ついつい盛り上がってしまいました。

イ・ラン:今回だけであんまり話しすぎないよう、これからのために取っておかないと(笑)。

編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

すがわらしき

最終更新:2023/08/06 13:00
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