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SNS特化型アイドル・あっぷろーでぃあ「りの」の「給料0にされました」投稿が話題

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Getty Images

 今の芸能活動において何をするにもSNSは欠かせない。番組やイベント、何かしらの宣伝はもちろんのこと、自身が出演した番組やイベントの終了後、感想やそのあと何があったなどの後日談を投稿するパターンも多い。ドッキリ企画に関してはその後のSNSを含めて完結するなんてこともある。このようにSNSはとても重要なポイントであり、現在ではSNSを起点とした芸能活動をしている芸能人も少なくない。

 9月中旬、そんなSNSを利用したとあるプロモーション活動がネットで話題となった。アイドルグループ「あっぷろーでぃあ」のメンバーである「りの」さんが、9月13日に「X(旧ツイッター)」にて以下のような投稿をしたのだ。

 「運営さんから急に給料0にされました、、助けてください。15日の23:59までの1RT×10円でくれるらしいのでお願いします」

 このコメントと共に運営側とのメッセージのやり取りを公開。そのやり取りによると給料が0円になってしまったのは、りのさん自身のチェキの売り上げがグループ内で最も少なかったという理由だった。そのメッセージに対し、何とか給料をもらえないかと食い下がる「りの」さんへ対し運営サイドは「りの」さんがTwitter担当という部分に着目し「TwitterでRTされた数×10円ボーナスであげるよ」と返信。さらに「多分60円くらいで済むと思うし!」と付け加えた。

 このアイドルグループ「あっぷろーでぃあ」はSNS特化型アイドルという形態であり、メンバーそれぞれが何かしらのSNSの担当になっている。今回話題となった「りの」さんはブルー担当、つまり旧Twitterの担当ということで、このような提案をされたというわけだ。

 このコメント&やり取りを見たユーザーたちからは「知らない人だけどRTしときます」や「おもしろそうだから、どれだけいくか見てみたい」「オタクの本気見せてやれ」など、応援する声が寄せられ、期限である15日の昼過ぎには1.6万以上リポスト(リツイート)されたのだ。

 しかしこのような応援コメントだけが寄せられたわけではなく「こんな運営さんがいるからアイドルさんも大変なんですね」「給料0って労働環境どうなってんの」など運営サイドに対する批判も寄せられたのだ。

 こういった批判コメントが多く寄せられたことで、運営サイドは同13日グループ公式Xにてりのさんの投稿を引用しつつ「下記ツイートですが『給料0』という点はSNS特化型アイドルとしてのストーリーを作る上でのネタになります。しかし1RT×10円の企画に関しては、実際に行いますので引き続きRTお願いいたします」という説明を投稿した。

 この運営サイドの説明コメントを読み、僕は正直いたたまれない気持ちになった。「りの」さんの投稿を目にした時点でこれはネタだとわかるものだったからだ。もちろん大半のユーザーはこれをネタだと理解していただろう。もしこれがリアルなものであるならば、運営とのやり取りを公表するはずがない。さらにやり取りの文章からしてもとても丁寧で、ルールがわかりやすく提示されている。これは明らかに第三者の目を意識したものだとわかる。すべてを踏まえてネタだとわかりそうなものなのだが、一部のユーザーはこのフィクションを現実だと受け止めて批判をしてしまったのだ。

 僕が子供の頃、テレビ番組、とくにバラエティ番組から発信される情報はほとんどがフィクションで、芸能界はファンタジーな世界だと捉えていた。そうでなければあんなに面白いことが毎日起こるはずが無い。出演している芸能人も、番組の世界観も、リアルに見えるがフィクションで作られており、芸能人のプライベートが見えないのが当たり前だった。

 なので番組によって素の部分が垣間見えたりすると、めちゃくちゃテンションが上がり、お得な気分になったのだ。しかしリアルを売りにするYouTubeの登場により、テレビなどの仮想空間と現実の境目が曖昧となり、フィクションがフィクションとして受け止められなくなってしまう人が増えたのだ。さらに今はどんな目的があろうと、どれだけ面白かろうと「誰も傷つけない」ことが最優先とされており、本来ならしなくていいようなネタばらしをしてでも「本当は誰も傷ついていない」ということを伝えなければならなくなった。

 もやは視聴者が求めるアイドルや芸人、芸能人像はファンタジー世界の住人ではなくなってしまったのだ。これは僕の偏見だが、芸能人全員が素で番組に出演したら、何も面白くなくなるはずだ。芸人は頑張らないと面白くないし、アイドルもキャラクターに入らなければ我々一般人と変わらない。だからこそ長年時間をかけて先人たちが指針となる芸人像、アイドル像を作り上げ、それを追うことによりファンから愛される芸能人になれるのだ。「どうせリアルじゃないだろうけど、リアルだったらいいなぁ」と楽しむのがエンタメであって「リアルのみしか受け付けない」という人がエンタメを楽しめるわけがないのだ。

 そして今回に限らず批判をしがちな人たちに伝えたいのだが、批判ではなくその感情を応援に変えるのはいかがだろう。今回の件で批判した人たちの心理として「このアイドルを助けてあげたい」という思いが根底にあったはず。助けるなら今回の敵役である運営を批判するのではなく、主人公であるアイドルを応援すれば「アイドルを助けたい」という思いは成就できるはずだ。誰かを批判したり、理路整然と自己主張するのはとても優越感があり、満足感も得られるだろう。

 しかしそれよりも困っている人を助けて感謝された方がよっぽど満足感を得られさらに幸福感も感じられるはず。なのでこの「誰も傷つけないが大切」とされる現代においては、敵役である運営さんさえも傷つけてはならない。やられたらやり返すなんて前時代的発想なのだ。そもそも批判はやり返しではなく、新たな攻撃だ。必要なんてない。

 しかも今回の件ではネタだとわかった上で「ネタだとしても給料0というのをネタにして面白いと思っている経営者の事務所に推しが所属してたら薄ら寒い」「これは間違ったSNSの使い方、伸ばし方なので真似しないように」とコメントした人もいる。これはもう批判ではなく否定だ。もっとも他人にしてはいけないことのひとつだ。

 自分の考えを述べているように見えるが、誰かが生みだしたものをただ否定しているだけ。とても簡単な作業で、頭を使わなくても出来る。ただこういった否定コメントは受け取る側が正論に見えてしまう可能性が高く、楽して評価を得られるという自己肯定感爆上がりシステムなのだ。自己肯定感を上げるのはもちろん良いことだが、否定された人間は思ったよりも傷ついていることを忘れないでほしい。

 ちょっと真面目過ぎる話になってしまったが、今回の投稿に対し応援も批判も否定も込みで、かなりの人に注目された。「りの」さんはあっぷろーでぃあに加入してまだ3ヶ月程度。ネットニュースにまで取り上げられるなんて十分すぎるプロモーションになったのではないだろうか。まさに運営サイドの勝利。ここまでの展開を見越してあの投稿をしたのであれば「こんな運営さんがいるからアイドルさんも大変ですね」ではなく、「こんな運営さんがいるからアイドルさんは頑張れるのですね」といったところだろう。

 批判ありきで話題にする。これぞ時代に合った戦略。お見事。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/09/30 12:00
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