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『キングオブコント2023』非・感傷的ネタレビュー【1stステージ前半】

1stステージ前半 | TVer

 コント日本一を決める『キングオブコント』(TBS系)が21日に行われた。

 念願のキングの座を射止めたのは、決勝初出場のサルゴリラ。43歳の児玉智洋と44歳の赤羽健壱のコンビは大会史上最年長ファイナリスト、デビューは審査員席に座るかまいたち・山内健司とまったくの同期となる。

 長く苦労してきた、紆余曲折あった、売れかけたこともあった、サルゴリラのキャリアを振り返ろうと思えば、いくらでも感動的なエピソードを書き連ねることはできる。

 だが、ライブの、特にコンテストの舞台に立つということは、その表現を個人的な物語から逸脱させるということだ。カメラの前で行われた表現がすべてであり、個人的な経験や感傷はその表現の出力を高めるための要素でしかない。そうして個人から切り離された表現の純度こそが審査されるべき対象であり、大会を見届けた直後の今、語るべき対象であると思って書き進めたい。なぜなら、ちょっとあまりにも感動的すぎて泣いちゃいそうだからだ。

 あと、出順次第では……というのも、際限なくなりそうなのでやめておいて、ネタの内容の話だけにしたい。

 では、振り返りましょう。

■カゲヤマ「料亭」

はい、めちゃくちゃ笑いました。それにしてもトップにカゲヤマがくるとは思わず、「カゲヤマ!?」とテレビの前で叫んでしまった。

このネタの成功は、ふすまの中の益田を発見したタバやん。が「おしり!?」と言ったことにあると思う。ド下ネタでありながら、ギリギリの線でファニーになったのは、「全裸!?」だったり「フルチン!?」ではなく「おしり」だったからだろう。

観客の目線では確かに「おしり」だが(それでも直感的な違和感はあるが)、実際にタバやん。の目線に立てば、そこには中年男性上司の全裸土下座という痛々しい姿があるわけで、本当に謝罪の気持ちがある彼の心情を追うなら「何してんすか!?」からの「謝罪相手の反応は……?」であるはず。その心情のリアルよりも、見る側の目線を誘導することを優先しての「おしり」。このコントは人物の機微を追って共感を誘うものではなく、異様な状況を風景として楽しむものであるという、観客の意識の舵取りを意味する「おしり」。力ずくでそこに持っていった脚本の強さと、益田のシンプルな体型の強さを感じた。

■ニッポンの社長「フランス」

「カゲヤマの次にニッ社!?」と、またびっくり。

ケツが痛みを感じないという設定は2021年の「バッティングセンター」と通じるもので、その異常さをエスカレートさせた上でシンプルな設定に落とし込んだネタ。初手からナイフでも笑えてしまうのは、ケツの丈夫そうな見た目はもちろん、ある程度ケツのキャラクターが定着していたということでもあると思う。その意味で、決勝に何度も上がっていたことがメリットになっている。

ナイフ、拳銃、ショットガン、手榴弾、地雷と小道具ボケの手数は多くないが、最初のナイフだけで5分尺の半分である2分30秒を使っている。ここが芝居で「もつ」のが2人の最大の強みだと思う。辻が冒頭で不自然に大きい荷物を持っているのも、「空港」というワードが出た瞬間に馴染んでしまっていて、これも計算だったのならすごい。

■や団「舞台演出家」

「や団、もう出ちゃうの!?」と3回目のびっくり。この大会の優勝候補はニッ社とや団だと思っていたので、どんな大会になるのかまったく予想がつかなくなってしまった。

「厳しい演出家は灰皿を投げる」という常識(?)は観客席の若い女性には通用しないという前提で、ロングの佇まいに説得力を持たせているのがさすが。この3人で100万本くらいネタを書いてきたからこそ、全員のルックスと行動がフィットしていて、めちゃくちゃ見やすくなっている。

ガラスの灰皿をゴンと置くのではなく、優しく置いて回すのも、中嶋が粗暴な人間ではないことと灰皿が死ぬほど重いことの両方を一度に表現できる上、不思議なスリルが発生していてコントを豊かなものにしていると思う。

役割分担完璧。というか、全部完璧。そういう印象。

■蛙亭「寿司」

前振りのVTRでイワクラが「中野の覚醒」と語っていたが、むしろ書き手としてのイワクラの覚醒のように思う。中野だけが面白く見えればいいという、いい意味での開き直りを感じて感動した。そして、それを超えてくる中野の凄まじさ。演技力とか滑舌とか、そういうものを超越した存在としての違和感を表現できる演者は、今の芸人界を見渡してみてもそう多くないと思う。

その違和感があるからこそ、大桶の寿司を1人ではなく友達と4人で食べる(誕生日に集まってくれる友達がいる)という事実だけで笑いにつながっている。というか、中野は好きな寿司が「とても好きだ」と言っているだけで、変なことはひとつも言っていない。寿司については気が短くなるものの、基本的に言動は優しい。それがここまで笑いを呼んでしまうという中野のフィジカル、つまりは体型と動作と発声の持つ特殊な力が発揮された素晴らしいネタだった。

この出来で8位とは。

■ジグザグジギー「マニフェスト」

このネタを松ちゃんが見るんだ、と準決勝の配信を見ていてめちゃくちゃワクワクしたネタ。1本目に選んでくれてありがとう。7年ぶりの決勝だが、7年前より老けた宮澤の見た目に「芸人出身の市長」というキャラクターがバチっとハマっていて気持ちがいい。

フリップ2枚目から、「ああ、これは大喜利のパロディだ」となんとなく理解はできるし笑えてくるところ、池田の「残り2~3文字で出さないでください」というツッコミが冴える。具体的に、そうすれば大喜利っぽく見えるという、大喜利における動作の解体という作業を初めて見て、また感動してしまった。で、何をやってるか完全に理解させておいて、トイレのイラスト。段取りの美しさもある。

審査員の飯塚が、ナレーションが入ったところでリアリティを失していると指摘したときに、池田が痛恨の表情で頭を抱えたのが印象的だった。おそらくは、自分たちでも「ここちょっと引っかかるけど、何回やってもウケるし、このままいこう」と判断した展開ではなかったか。

 * * *

「1stステージ後半」につづく

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/10/22 09:32
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