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ダウ90000がYouTubeで公開した新作コントが素晴らしかったのでレビューする

ダウ90000 コント「3年経つということ」 – YouTube

 ダウ90000が23日、YouTubeの公式チャンネル「ダウ九萬」に新作コントを公開した。タイトルは「3年経つということ」。大学のゼミで出会った6人の男女がそれぞれ3組のカップルになり、3年後の同窓会に、6人と講師の男性1人、計7人が集まるという筋立てだ。そのうちのひとり、蓮見翔が1学年上の卒業生で、大学卒業後に催眠術師として活動し始めているという設定がフックになっている。尺は30分弱、先月末に東京・ユーロライブで行われたイベント「テアトロコント」で披露されたものだという。

 催眠術とコントという取り合わせは、相性がいいのだろう。『キングオブコント』(TBS系)でも2010年にロッチ、19年にうるとらブギーズが催眠術師ネタで決勝に進んでいるし、ある程度キャリアのあるコント師なら1本や2本は作ったことがあるに違いない。その定番の設定に、ダウの作・演出をすべて手掛ける蓮見が得手としている若者同士の恋愛群像劇をミックスしたのが、今回の「3年経つということ」だった。

 コントに限らず、催眠術というジャンルには常に世間から疑惑の目が向けられている。特に我々が普段テレビで目にする催眠術ショーでは、本当にかかっているのか、かかっているフリをしているんじゃないか、インチキなんじゃないか、じゃあなぜあんなに大量のワサビやレモンを美味しそうに食べているのか、そういう特殊な味覚の人なんじゃないか、でもあの人はグルメ番組とかよく出てるじゃないか、それはそうとして昔は深夜によくやっていたエロい催眠術のやつはもうやってくれないのか、そんな疑念が、常に視聴者の頭の中を巡り巡って、最近ではストレートな催眠術ショーがテレビで放送されることは少なくなった。ネット上で誰もが声を上げ、各々の検証や疑念を拡散できるようになった現在では、テレビ局やタレント事務所にとってリスクのほうが大きいのだろう。

 催眠術は、怪しいものだ。かかっているか、かかっていないのか、他人にはわからない。だが一方で、催眠術はすべてウソだと断じるほどでもない。仮に自分がかけられたとしたら、かかっていることに気づけるかどうかわからない。自分が催眠術にかかりやすいのか、かかりにくいのか、そんなことは誰も知らない。

 蓮見演じる催眠術師と彼女の間でも、そうした催眠術に対する一般的な心理が作用する。綿密に組み上げられた会話劇と蓮見の軽快なツッコミに乗って、ストーリーは「恋」や「愛」と「催眠」が遠からぬ性質であることを白状しながら、若い恋愛感情の揺れを増幅させていく。

 ほかの2組のカップルにも同じだけの時間が流れたことが描かれる。それぞれ、互いを好きになったきっかけだったはずの相手の性格が、共に過ごすうちに受け入れ難くなっていく。ときめきが生活に埋没し、取るに足らない日常の澱に変化していたころ、3年後、同窓会が開かれる。それぞれの思いが「相手を好きになったきっかけ」に回帰していく。

 こうしてあらすじだけ書くと、どこかの素敵なラブストーリーのようだが、実際にそうでもあるのだが、ダウ90000のコントはこの間、ずっと面白いのである。お笑い的に笑える、という意味での面白いが、オチまでずっとそこにあるのだ。

 ああ、完璧だ。そう思った。完璧に面白いものを見た。しかも、見終わった後にもう一度見直すと、冒頭の出会いのシーンに数々の伏線が張られていることにも気づく。それを確認して「すげえな!」とか思っているうちに、通しでもう一度見てしまう。気づいたら、1時間が溶けている。

 * * *

 ところで、ダウ90000は8人組ユニットである。このコントに、メンバーの道上珠妃は出演していない。そういうものかと思ったのだが、劇場周辺から漏れ伝わってきたところによると、道上は発熱があって、急遽欠席だったのだそうだ。それで蓮見は、急遽脚本を8人バージョンから7人バージョンに書き換えたのだそうだ。

 ついさっき、ああ完璧だと天を仰いだ完璧なコントが、なんということでしょう。急造だったなんて。

 ダウ90000は今年、『キングオブコント』の準決勝で敗退している。その結果は、客観的に見ても順当だったと思う。まだ結成3年である。

「5分ネタじゃ勝てなかったが、30分なら勝負になるだろ」

 蓮見は絶対にそんなことを言わないだろうが、隠しきれない才能がそう叫んでいた。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/11/16 15:12
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