日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 『M-1』事前番組の「ドリーム感」が苦手

『M-1グランプリ』事前番組の「ドリーム感」「人生、変えてくれ。感」が苦手だという話

『M-1グランプリ』公式サイト

 17日、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の特番『超お宝映像で振り返る!M-1衝撃の瞬間SP』(同)が放送された。2005年王者のブラックマヨネーズと川田裕美がMCを務め、過去の『M-1』から数々の名場面がピックアップされた。

 19年、テレビ出演ゼロから史上最高得点での優勝を果たしたミルクボーイ、最高齢の錦鯉、そしてこの日MCを担当したブラックマヨネーズも含め、番組が強調したのは、無名の芸人を一気にスターダムにのし上げる「M-1ドリーム」だった。

「人生、変えてくれ。」

『M-1』のキャッチコピーである。いつからか『M-1』は、はばかることなく自ら「芸人の人生を変える大会」を標榜するようになった。確かに、『M-1』をきっかけにブレークした芸人は数多い。優勝者のみならず、08年の敗者復活から2位に入ったオードリー、休眠を経て15年に復活した『M-1』トップバッターのメイプル超合金、16年のカミナリなど、『M-1』翌日から続くドリームをつかんだコンビは枚挙にいとまがないところだ。

 一方で年々、『M-1』は売れている芸人が勝ちにくくなっているともいわれる。コアなお笑いファンが集まる予選ではテレビ出演の多い有名コンビほどウケが悪くなるといわれて久しいし、キャラクターやインパクトの面で、やはり無名コンビに有利に働く要素は少なくない。

「人生、変えてくれ。」

 もう正直に言ってしまえば、このキャッチコピーがあまり好きではないのである。『M-1』の出自が新人漫才コンテストであるからして、ニュースターの発掘をコンセプトとして打ち出すことは悪くない。一方で、21年のファイナルステージでオズワルドが変な感じになり、錦鯉の優勝が見えてきたときには「こんな人生があるのか……人生って変えられるのか……」などと、テレビの前で声に出してつぶやいてしまったことも白状しておく。

 だが、それはあくまで視聴者や観客側の受け取り方に委ねられるべきものであり、大会側から「人生を変える大会です」と宣言される性質のものではないように思う。予選のウケの問題に戻れば、「人生を変えてあげたい芸人を応援してね」と大会側から観客にメッセージを送ることになってしまってはいないか。それは「ただ面白い芸人で笑ってね」という本来の漫才師と観客の関係性を、ねじ曲げてしまってはいないか、そんなことを考えるのだ。

 07年のサンドウィッチマンや08年のオードリーが描いたドラマは、確かに魅力的だった。だが、当時は『M-1』だけが芸人の人生を変える道筋ではなかった。年々巨大化し、それ以外のお笑いの価値基準をどんどん飲み込んでいく『M-1』本体には、できるだけフラットに「一番面白い漫才師を決める」というのみの大会でいてほしいと願う。

 今年の決勝メンバーでいえば、もっとも売れているのはモグライダーだろう。TBSの大ゴールデン番組『ジョンソン』でメインを張り、同局朝の『ラヴィット!』でも毎日のように顔を見るようになった。

 だが、モグライダーの漫才には「慣れられる」ことがない。ともしげがどうなるか、誰も予想できない。だからこそ、モグライダーには大きなチャンスがあると思う。ここで、「史上もっとも売れている『M-1』王者」となって、芝大輔に「人生あんま変わんねえな」と言ってほしい。そんなひねくれた期待をかけてしまう。

 あと、ウエストランドの井口浩之がどこかで「M-1獲っても人生あんま変わんねえな」と言ってたような気がするけど、井口は売れてる売れてないとかではなく達観してるから、あまりこの話に関係ないような気がするんだよなぁ。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/12/17 19:00
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed