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週刊誌スクープ大賞

曖昧な松本人志“訴状”のツッコミどころと高すぎる慰謝料5億円の適正額

週刊誌史上に残る“松本人志”名誉毀損裁判

 今週の第2位は、松本人志VS.週刊文春の週刊史上に残るであろう名誉棄損裁判のお話。

 いよいよ注目の裁判が始まるが、文春は、松本人志がから届いた訴状を公開して、早くも内容がおかしいと先制パンチを浴びせている。

 訴状は全13ページに及び、昨年12月27日発売号の「松本人志と恐怖の一夜『俺の子どもを産めや!』と題した記事によって名誉を棄損されたと主張。五億五千万円の損害賠償に加えて、文字の大きさやフォントまで指定した謝罪広告の掲載を求めているそうだ。

 これは珍しいことではない。私が現役時代にも、訴えた側が謝罪文の要求と同時に、どのページのどのあたりに、どれくらいのフォント(私の時代は活字の大きさだったが)を要求してくるのはよくあった。

 その訴状にはこう書かれているという。

「A子記述部分の記述は、A子の“体験”として、原告から『いきなりキスされそうになったこと、またキスされそうになったので、しゃがんで抵抗したところ、足を固定されて、3点止めの状態にされ』たこと(略)などを記述することにより、一般読者に対し、原告が、明らかにA子の意思に反して、『無理やり』性的行為の及んだとの事実を認識させるものである」

 同じ記事中に登場するB子の記述部分や関連記述についても、

「B子記述部分においても、原告が、B子に対して、『全裸でベッドに引きずり込んだ』こと(略)等を記述することにより、一般読者に対し、原告が、B子が『必死に抵抗』していたにもかかわらず、性的行為に及んだとの事実を認識させるものである」

 松本側は計12か所の記述に対して、

「『性的行為を強要』したというレッテルが貼られてしまえば、芸能活動を行う原告の社会的評価を著しく低下させる」

「ましてや、それが複数の女性に対し行われていたかの如き記述は、原告の芸能活動に、致命的な負の影響を与えることにより、社会的評価を低下させることは言うまでもなく、原告の名誉を棄損するものであることは明らかである」

「本件記事は、原告がA子及びB子に対し性的行為を強要したという客観的証拠は存在しないにもかかわらず、一方的な供述だけを取り上げて記事として掲載するという、極めて杜撰な取材活動に基づくものである」

 としているというのである。

 私も編集長時代にずいぶん多くの訴状を受け取ったことがあるが、これほど曖昧で要領を得ないものはなかったと思う。

 文春側はこう反論する。まずは「杜撰な取材」ということについてはこうだ。

「そもそも小誌が最初にA子さんに接触したのは今から三年半程前の二〇二〇年七月十八日のことだった。

 都内の弁護士事務所で、A子さんは取材に応じたもの、当時はまだ、松本から受けた被害を誌面で告発する勇気を持ち合わせていなかった。小誌もまた、裏取りの困難さやA子さん一人だけの証言では不安が残ることなどを鑑みて、すぐさま記事にすることを見送っていた」

という。

 文春は2022年3月に、映画監督の榊英雄氏の映画に出演した複数の女優が、性的行為を強要されていたことを報道し、それが皮切りとなり、映画界にはびこる性加害問題が明らかとなり、日本でも多くの#MeTooが叫ばれるようになったとしている。

 2月20日、文春が報じた、その榊監督が逮捕されたと報じられた。

〈俳優を目指した女性に性的暴行を加えたとして、警視庁は20日、映画監督でアルバイトの榊(さかき)英雄容疑者(53)=川崎市中原区=を準強姦(ごうかん)容疑で逮捕し、発表した。「冤罪(えんざい)です」と容疑を否認しているという。

 捜査1課によると、榊容疑者は2016年5月23日午後10~11時ごろ、東京都港区のマンションの一室で、演技指導をする名目で、俳優を目指していた当時20代の女性にわいせつな行為をした疑いがある〉(朝日新聞Digital2月20日 20時19分)

 文春の取材活動が綿密に行われている証拠である。

 文春は松本ケースでも、別の取材源から松本の携帯電話の番号を入手して、その番号がA子の知る松本の携帯電話と同一であることを確認している。

 また、A子が記憶していた当時の松本の髪の色や服装、彼女の証言内容に矛盾がないかを確認するため、過去のテレビ映像や新聞、雑誌の過去記事などを取り寄せて分析したという。

「加えて、松本と『スピードワゴン』の小沢一敬、放送作家Xとの関係性等も調査し、A子さんの証言にどれほどの信憑性があるのか、一つずつ確認していったのである。(中略)

 被害現場となった『グランドハイアット東京』のゲストルーム『グランドエグゼクティブスイートキング』の間取りを事前情報なしでA子さんに描いてもらい、その上で当該の部屋をA子さんと訪ね“実況見分”も行った」(文春)

 文春は、無罪請負人の異名を持つ弘中惇一郎弁護士に訴状を見せて、感想を聞いている。

「通常、訴状には何が事実で、何が虚偽なのかを書くものですが、この訴状にはそれが一切書かれていない。(松本が)女性たちと性的関係に至ったのかどうかも説明しておらず、強い違和感を覚えます」

 たしかに不思議なのは、訴状には、松本が個室で女性と2人きりになったのか、キスをしたのか、全裸になったのかといった性的行為に至るまでの細かな過程に関して言及がないのだ。

 ということは、訴状から見えてくるのは、A子やB子と性的関係を持ったことは争わない。それを認めた上で、強制的ではなく、合意のうえでのことだと主張し、争うのであろう。

 しかし、そうした同意の有無に関しても、この訴状にはいささか問題があると、弘中弁護士はいう。

「刑法でも昔は強姦罪と言っていたものが、二三年七月に不同意性交等罪に変わりました。現在の考え方は、脅したり暴力をふるったりしなくても、立場を利用して同意なく性行為を行えばそれだけでアウトです。

 全体的に問題提起の仕方が古くて今の常識に反しており、昔の強姦罪的なイメージで訴状が作られている感じがします」

 さらに損害賠償額についても、松本側はテレビ番組を休止したり、出演していたCMも中止になり、「筆舌に尽くし難い精神的損害を受けたのであるから、原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は5億円を下らない」としているが、弘中弁護士は、

「原告の経済的損害や休業損害を含めての五億円ならまだ理解できますが、純粋な慰謝料としてはあり得ない金額です。慰謝料というのは、殺人事件の遺族であっても三千万円から五千万円。桁を間違えているんじゃないでしょうか」

 この注目の訴訟、リングに上がる前に、松本側がノックアウト寸前と、私は見た。

A子がこう話している。

「訴状を読み、松本さんが全く反省していないことが分かり、改めて“勇気を出して告発してよかった”と強く感じています。裁判所から要請があれば、松本さんから受けた性被害について、しっかりと証言したいと思います」

 同様にB子もこういっている。

「私が文春に話したことは、嘘偽りのない事実です。あとはそれを第三者が客観的に見てどう思うか。裁判官なり、読者の方に判断していただければと思っています」

第一回口頭弁論の期日は、3月28日の午後2時30分からだそうだ。

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