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新堂冬樹 連載BL小説『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』1-2

ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい

<前回までのあらすじ>

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 蒼(あおい)、颯(はやて)、蓮(れん)からなるボーイズ・アイドルグループの「サクランボーイズ」はメジャーデビューに向けて、振付師・マカロン譲二のもとで新曲のダhttps://www.cyzo.com/?p=316800&preview=trueンスを付けながら日々レッスンに励んでいた。

 マカロン譲二はグループのセンターである蒼に強烈なダメ出しをする。実際、蒼はメンバーの中では歌とダンスともに最も問題があった。しかし、そうであってもセンターに指名されたのは、大手広告代理店であり、グループのスポンサーである”世界堂”の荒巻ふとしの指示だったからだ。

 このままだと荒巻ふとしから援助を得られないと判断したマカロン譲二は、激しく蒼を叱責する。その様子にいたたまれなくなった颯が蒼をかばおうとするが、余計にマカロン譲二の怒りをかってしまった。

 二人は男性同士でありながら恋人関係だったことがある。マカロン譲二はいまだその関係が解消されてないのではないかと疑惑をぶつけくる。デビューする条件に恋人関係の解消が含まれているのだ。

 蒼は颯の行動に感謝を覚えつつ過去を回想する――。

―――

『待ちくたびれたよ』

 合宿所のマンション――蒼がドアを開けるなり、颯に力強く抱き締められた。

 褐色の逞しい上半身に、白のタンクトップが眩しかった。

 隆起した大胸筋から立ち上る汗の残り香を、蒼は胸いっぱいに吸った。

 ほかの男性の汗のにおいは生理的に受けつけなかったが、颯は特別だった。

『今日は話し合いにきたんだから、だめだよ』

 蒼は分厚く硬い胸を押して逃れようとしたが、颯の力には抗えずにさらに強く抱き締められた。

 いや、本気で抵抗すれば逃れられたかもしれないが、蒼の心は颯に抱き締められたいという思いが勝っていた。

『イチャイチャしてからでいいじゃん』

 颯の顔が近づいてきた。

『だめだって……』 

 顔を背けようとした蒼の顎を颯に掴まれ、強い力で引き寄せられた。

 百六十七センチの蒼のかかとは浮き、百八十センチの颯に唇を奪われた。

 蒼の延髄に甘美な電流が流れ、腰が砕けそうになった。

『本当に……だめだよ!』

 このまま逞しい胸に身を委ねたいという誘惑に蒼は抗い、颯を押し退けた。

『蒼、今日はいったいどうしたんだよ?』

 颯が不思議そうな顔で訊ねてきた。

『どうしたじゃないよ。社長に言われたでしょ? デビュー前に僕たちが付き合っていることがマスコミにバレたら、大変なことになるから別れなさいって』

『だから?』

『だから、僕たちは別れなきゃ……』

『愛し合ってるのに?』

    颯が蒼を玄関の壁に押し付け、顔を近づけてきた。

『仕方ないよ。社長の命令だから……』

『蒼は別れられるの?』

 颯が耳もとで囁くと、吐息が耳たぶをくすぐった。

 蒼の身体がビクリと反応した。

『別れるしかないじゃない……別れなきゃ、僕たちデビューできないんだから』

『別れないでデビューすればいいさ。黙ってればバレないよ』

 あっけらかんとした口調で、颯が言った。

『バレるに決まってるよ。現に、僕たちの関係がバレちゃったでしょ?』

『そのときは、俺が守ってあげるよ』

 颯が屈託のない笑みを浮かべた。

 颯の懐の深さが好きだった――大らかで自信に満ちたところが好きだった。

 彼に手を引かれていれば安心だった――彼の腕に抱かれていれば安心だった。

 蒼はデビューよりも、颯への愛を優先できる。

 だが、颯はそれをやってはだめだ。

 女手一つで育ててくれた母親に恩返しするためにデビューを目指している颯のためにも、蒼は関係を終わらせなければならない。

『だめだよ。マカロン先生も言ってたでしょ。僕らの関係がバレたらデビューできなくなるから、社長の言う通りにしなさいって。荒巻さんだって、僕らが別れることを条件に支援してくれるんだから』

 『サディは大袈裟に脅しているだけだって。デブキモも好きでやってることだし。それに、恋愛禁止なんて事務所の契約書にも書いてないんだから』

 デブキモ……スポンサーの荒巻太は変質的な性格と体重百キロを超える体型から、颯にそう呼ばれている。

『だからって、こんなこと続けてたらだめだよ。僕がここにきたのは、颯と別れるため……あ……』

 蒼の首筋に颯が唇を押しつけ、ズボン越しに「蒼」を握り締めてきた。

『俺と別れるって? もう一人の蒼は正直だよ』

 恥ずかしいほどに怒張した「蒼」は、颯の大きな掌の中で脈打っていた。

 颯の指先がファスナーを下ろした。

『颯君、やめてよ……』

 蒼は消え入る声で言った。

『だから、もう一人の「蒼」はそうは言ってないから』

 颯が言いながら、ボクサーパンツの中に手を入れ屹立した『蒼』をじかに握り締めた。

『あっ……』

 思わず蒼は声を漏らした。

『な?  こいつは、別れたくない別れたくないって言ってるよ』

 颯が悪戯っ子のように笑いながら、「蒼」を包んだ右手を上下に動かした。

『ちょっ……颯君……やめ……て……』

 蒼は歯を食い縛り、心を無にした—迫りくる快感から意識を逸らした。

『我慢しなくていいから。いつもみたいにかわいい声を出して、俺の手を汚していいから』

 颯が、憎らしいほど魅力的な笑顔で蒼をみつめた。

 颯の瞳は、蒼の理性を焼き尽くす――颯の微笑みは、蒼の心を惑わせる。

 眼を閉じた。

 颯の魔力から逃れるために……。

 蒼が最愛の彼の腕の中にいたら……最愛の彼に不幸な運命を歩ませてしまう。

 颯の右手の動きが速度を増した。

『うっ……』

 噛み締めた奥歯の隙間から、呻き声が漏れた。

蒼の白い肌が桃色に染まり、薄っすらと汗ばんだ。

「蒼」から放出された甘美な電流が背筋を這い上がった。

 颯が蒼の耳たぶを甘噛みした――舌先を耳の穴に入れた。

『あぅん……』

 今度は、喘ぎ声が漏れた。

『どうした? 女の子みたいな切ない声を出して』

 颯が耳元で意地悪な口調で言った。

『やめなきゃ、本当に怒る……』

 颯が蒼を楽々とお姫様抱っこした。

『怒った顔を、ベッドでゆっくり見せてもらうよ』

『下ろしてっ、颯君っ、下ろしてよ!』

   蒼は身をねじって足をバタつかせたが、颯の太く逞しい腕はビクともしなかった。

 颯は六畳のフローリング張りの洋間に入り蒼をベッドに横たえると、手早くタンクトップとスウェットパンツを脱ぎ捨てた。

『蒼がかわいくて、こんなになっちゃったよ』

 仰向けの蒼を跨いで立つ颯が、黒のボクサーパンツを突き破りそうに熱り立っている「颯」を指差した。

 体脂肪率一桁の颯の彫刻のような浅黒い肉体は、いつ見てもため息が出るほどに美しくセクシーだった。

 「颯」を見たい……唐突な衝動を蒼は慌てて打ち消した。

『ほら、見せて、って眼をしてるぞ』

 颯が蒼の心を見透かしたようにボクサーパンツを脱ぐと、弾かれたように跳ね上がった「颯」がへそを叩いた。

 蒼はビクン、ビクンと脈打ち怒張する「颯」から顔を逸らした。

 背けた顔の前に、反り返った「颯」が現れた。

『蒼は正直な子だね』

 シックスナインの体勢になった颯が、蒼の桃色に染まった「蒼」を握り締めつつ言った。 

『俺のも、好きにしていいよ』

 言って、颯が「蒼」を口に含んだ。

『ああ……』

 蒼の口から、吐息とともに甘い声が漏れた。

『俺のは、やってくれないの?』

   「蒼」から口を離した颯が振り返った。

『だから、僕たちはもう……』

『やってくれないなら、こうするからな』

 颯は『蒼』の先端を右手で包み、物凄い勢いでしごき始めた。

 十分にたかぶっていた「蒼」は、これ以上は耐えられなかった。

 颯に別れを告げにきたのに、欲望を満たすわけにはいかなかった。

『わかった……するよ、するから。その代わり、僕のに触らないで……』

 蒼は上ずる声で言うと、血管が浮き出すカチカチの「颯」を両手で包み込んだ。

 片手では握り切れないからだ。

 蒼は眼を閉じ、「颯」を口に含んだ。

『う……ふぅむぐ……』

 蒼は小さな口を目一杯開けて、太く反り勃つ「颯」を頬張った。

 蒼の手首ほどある「颯」に、顎が外れてしまいそうだった。

 そんな逞しい「颯」を含んでいるだけで、蒼はたかぶった。

『ほら、くわえてるだけじゃだめじゃん。いつもみたいに吸ったり、舌を使って』

 颯の低い声に命じられ、「蒼」は甘く疼いた。

 蒼は颯に命じられたように「颯」のカリ首を唇で締めつけながら、頬をすぼめて吸引した。

 エッチのときに颯に命じられるのが好きだった……颯に従うのが好きだった。

『蒼は口がちっちゃいから……やっぱり気持ちいいな』

 颯が上ずる声で言った。

 颯が気持ちよくなると、蒼も気持ちよくなる。

『俺はなにもやってないのに、先っぽからお汁が出てるぞ? 蒼はエッチな子だね』

『颯君……イジめないでよ……』

 蒼は「颯」から口を離し、喘ぐように言った。

『了解。もっとイジめてほしいってことだな』

 颯が白い歯を見せ悪戯っぽく言うと、サクランボを食(は)むように蒼の袋を口に含み激しく吸いながら、「蒼」を握る右手を高速スピードで上下に動かした。

『あん……だ……だめだよ……颯君……そんなにやったら……僕……』




「そんな大金、払えるわけないじゃん。だから、メジャーデビューするためにもっとレッスンしなきゃ。蒼を説教してる場合じゃないよ。さ、早く始めよう!」

 颯のマカロン譲二を急き立てる声が、蒼の甘い記憶の扉を閉めた。

「ノンノンノン! ごまかされないわよ! 話を逸らさないで! あなたたちは、まだ付き合ってるの!? まだ切れてないの!? もしかして、あんなこともこんなこともやっちゃってるわけ!?」

 マカロン譲二が、ヒステリックに蒼と颯を問い詰めた。

「わかったよ、マカロン先生。言うよ。俺たちは……」

「僕たちは別れました。いまはもう、颯君のことをなんとも思っていません」

 蒼は颯を遮った。

 言葉とは裏腹に、颯とのエッチを思い出したせいでボクサーパンツの中はびちょびちょに濡れていた。

「蒼……」

 颯がなにかを言いたそうに蒼をみつめた。

 吸い込まれそうな瞳……魔法の瞳に蒼は抗った。

「むしろ、メジャーデビューの障害になるので、マカロン先生にそういう眼で見られるだけで迷惑です」

 蒼は心を鬼にして颯を突き離した。

 颯のために……。

「わかったわ。信じたことにしてあげる! でもね、もし嘘だったら覚悟しなさいよ。荒巻さんは蒼ちゃんが大好きだから、かわいさ余って憎さ百倍で莫大な損害金を請求されちゃうんだからね!  ハイハイハイ! じゃあ、最初からやるわよ!」

 マカロン譲二が手を叩くと、デビュー曲のイントロがスタジオに流れ始めた。

【第2話へと続く】

新堂冬樹(作家)

メフィスト賞受賞作『血塗られた神話』でデビュー以降、数々の小説がベストセラーとなる。代表作は『溝鼠』、『カリスマ』や『忘れ雪』他。また、新堂プロを立ち上げ、タレント、アイドル、作家のプロデュース業を多く手掛け、その才能は多岐に渡る。

連載『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』

Instagram:@wasureyuki.fuyuki

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しんどうふゆき

最終更新:2024/03/17 21:00
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