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『アンチヒーロー』明墨は“悪徳弁護士”か――被告人との口裏合わせ、謎の少女への優しさの意味

『アンチヒーロー』明墨は悪徳弁護士か――被告人との口裏合わせ、謎の少女への優しさの意味の画像1
長谷川博己(写真/Getty Imagesより)

『半沢直樹』や『VIVANT』など数々の名作が生まれてきたTBSの日曜劇場。新たな名作の予感をさせる新ドラマ『アンチヒーロー』(TBS系)の第1話が4月14日に放送された。

 主人公の弁護士・明墨(長谷川博己)は明墨法律事務所を経営し自らも筆頭弁護士として活動する。弁護士といえば身体のラインに合ったスーツに身を包んだ誠実な人間、というイメージだが、明墨はゆったりとしたロングコートを身にまとい丸ぶちのサングラスを着ける、どちらかといえば弁護士よりも探偵を連想させるくだけた服装。長谷川博己には朝の連続テレビ小説『まんぷく』や大河ドラマ『麒麟がくる』で演じた“実直な好青年”の印象があるだけに、礼節をわきまえない明墨の存在が際立っている。

 そしてなにより、明墨の「殺人犯を無罪にする」という方針が型破りな弁護士像のコアになる。第1話では、町工場社長の殺害事件の被告人である緋山(岩田剛典)を明墨が弁護することに。盗撮、身分偽装、検察側の証人との接触……、明墨たちは弁護士としてグレーな手段で検察の“穴”を探っていく。指紋や防犯カメラなどさまざまな証拠を積み重ね、緋山の有罪に向けて余裕を見せる検察。その劣勢をひっくり返すべく、明墨たちは被害者遺族の“幼い”息子を証人として召喚することに成功。殺害現場に残された緋山の指紋は、子どものぬいぐるみを取る際についたものである可能性を提示し、法廷の空気を一変させる。検察の動揺からわかるように、明墨がいかに型破りな弁護士か伝える視聴者への挨拶代わりとも言えるシーンだった。

 第1話のラストでは、明墨と緋山が凶器であるハンマーについて口裏合わせしているかのようなやりとりが映された。つまり、明墨は“本当の殺人犯”である緋山を無罪にしようとしているのか。明墨の「殺人犯を無罪にする」というモットーは、殺人事件の裏側にある真実を明らかにしたいという明墨なりの“正義”だと思っていた。ただ、手を替え品を替え裁判を有利にしていく狡猾(こうかつ)さ、時折見せる不幸な境遇の人たちへの優しさ、このふたつが入り混じる明墨を見ていると、何が目的で弁護士をしているのか全く読み取れない。

 作品を通して明墨に立ちふさがる敵は、東京地方検察庁の検事正・伊達原(野村萬斎)になりそうだ。仕立てのよいスーツを着こなす貫禄たっぷりの伊達原は正義の象徴そのものだが、明墨とは考え方において対をなす存在として描かれていた。この検察の最高戦力こそ、明墨が面倒を見ている少女・紗耶(近藤華)、紗耶の父と思われる獄中の謎の男(緒形直人)が絡む事件の担当検事ではないだろうか。

 冒頭に記した名作誕生の予感だが、その理由にはキャスト陣の豪華さもある。公式サイトに掲載されているキャスト一覧は壮観だ。長谷川、野村、緒形ら主要キャストを筆頭に、『VIVANT』でテロ組織の幹部を好演した林泰文などが名を連ねる。第1話でも今クールの朝の連続テレビ小説『虎に翼』のキーマンを演じる岩田剛典、2023年に大きな話題を呼んだNetflix配信ドラマ『サンクチュアリ -聖域-』で主演を務めた一ノ瀬ワタルが出演した。今後実力派俳優陣が作品にどのように絡んでくるのか気になる。

 明墨が第1話で言い放った「依頼人のためなら障がいだって利用する」というセリフ。これを聞いてひやっとした視聴者は筆者だけではないだろう。人が抱える障がいを利用するなど卑劣そのもので、口にしようものなら社会的に罰せられるものだからだ。ただ、そこに触れてでも明墨の人物像を確立しようとする制作陣、そしてキャラクターの発言であっても演者が叩かれるリスクがある状況で、明墨役を受けた長谷川の覚悟が伝わったのが正直な感想である。日本最高峰の名優・長谷川博己が引き受けた“アンチヒーロー”の正体とは……。早くも第2話が気になって仕方がない。

■番組情報

日曜劇場『アンチヒーロー』

TBS系毎週日曜21時~
出演:長谷川博己、北村匠海、堀田真由、大島優子、木村佳乃、野村萬斎 ほか
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵
演出:田中健太、宮崎陽平、嶋田広野
脚本:山本奈奈、李正美、宮本勇人、福田哲平
音楽:梶浦由記、寺田志保
主題歌:milet「hanataba」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
法律監修:國松崇
警察監修:大澤良州
制作著作:TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/antihero_tbs/

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2024/04/21 08:00
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