日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「すべてをさらして明るく美しく」はるな愛が体現する新時代のオネエキャラ
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第42回

「すべてをさらして明るく美しく」はるな愛が体現する新時代のオネエキャラ

haruna_larry.jpg『夏 凸凹ラブ』エイベックス・
エンタテインメント

 はるな愛が、8月4日放送の『魔女たちの22時』にて、3カ月で10.4キロのダイエットに成功したことを発表した。エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の協力のもとでダイエット企画に挑戦。メタボ体型を卒業して、見事なくびれを披露していた。

 はるな愛は、2007年末頃から口パクで松浦亜弥の物真似をする「エアあやや」のネタをテレビで披露。『あらびき団』などの番組に出演したことから人気に火が付き、一気にブレイクを果たした。その後もバラエティ番組を中心に活躍の場を広げている。

 彼女が現在まで人気を保っている最大の理由は、どんな企画にも柔軟に対応する優れたバランス感覚にある。はるなは若い頃から水商売の世界に足を踏み入れ、客を楽しませるためのノウハウを実地で学んできた。また、歌手やタレントとして何度も芸能界に関わり、そこで自分がどう見られているのか、どう振る舞うべきなのかを研究していった。そういった場所で積み上げてきたものが、ブレイク後に一気に花開いたのではないだろうか。

 テレビの世界では、彼女のようなタイプの人はいったん「おネエキャラ」として扱われることになる。見た目が良くても悪くても、まずは一種のゲテモノ、キワモノとして人々の好奇の目にさらされてしまう。おすぎもピーコもIKKOも、まずはそういうポジションのタレントとして芸能界デビューを果たしている。

 だが、本当の勝負はそこから始まる。彼女たちが単なる一発屋を超えて生き残るためには、視聴者のニーズに合わせて戦略的に自らのキャラを打ち出していくことが不可欠となる。

 この点で、はるな愛が見せた立ち回りは見事だった。彼女は「松浦亜弥に憧れるニューハーフ芸人」の地位にとどまらず、性同一性障害に悩んだ過去を持つ人間、都内にお好み焼き屋などの店舗を複数持つ敏腕実業家、芸能界の裏事情に通じる情報屋など、さまざまな顔を持っていた。そして、企画に合わせてそれぞれの要素を効果的にアピールすることで、少しずつ人気を獲得していった。

 しかも、はるながすごいのはこれだけではない。彼女は、事あるごとに自分がいかにがんばってきたかを強調し、本物の女に近づくために努力を重ねてきたかということを熱く語ってきた。ここまでは「おネエキャラ」としては割とありがちなパターンだ。

 だが、彼女はここからさらに一歩踏み込んで、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)などのバラエティ番組で、そういった彼女のメンタリティそのものをネタとしていじられることも堂々と受け入れてみせたのである。

 彼女は、バラエティタレントとして、手持ちの使える武器はすべて使うという覚悟をきっちり決めている。その点こそが、はるなが他のおネエキャラと一線を画するところである。

 彼女は、「大西賢示」という本名を隠さない。男っぽい声質を隠さない。興味本位の視聴者の目線を受け入れながらも、あくまで明るく美しく生きようとする姿勢を崩さない。

 性同一性障害を重苦しいトラウマとして考えるのも、オカマをただの奇人変人扱いするのも、おネエキャラに対するとらえ方としてはもうだいぶ古臭い気がする。はるな愛は男と女の壁を超越した存在であると同時に、旧来のおネエキャラの枠を跳び越えた越境者でもあるのだ。
(文=お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

夏 凸凹ラブ

アイドルよりアイドル!

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ  コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/08 12:19
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

『24時間テレビ』強行放送の日テレに反省の色ナシ

「愛は地球を救う」のキャッチフレーズで197...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真