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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第48回

ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化

masuoka_mnzi.jpg『漫才少年―ますだおかだの漫才台本』
ベストセラーズ

 岡田圭右(ますだおかだ)、小島よしお、波田陽区の3人が結成した新ユニット「スベラーズ」が、9月30日にCDデビューする。スベラーズは、羞恥心やPaboに続いて『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ)から生まれたユニットで、彼らのデビューに際しては島田紳助から、CDの売り上げ次第で罰ゲームが課されることが発表されている。彼らは罰ゲームを免れることができるのかどうか、発売前から注目が高まっている。

 ますだおかだの岡田は、今ではすっかりスベリキャラが定着した感がある。だが、そんな彼も、漫才師としてデビューした当初からスベリ芸を売りにしていたわけではなかった。

 ますだおかだというコンビはもともと、増田英彦の切れ味の鋭いボケを武器にして活躍し、若い頃から数々の賞レースを総なめにしてきた。ただ、その時点での彼らの漫才には、無表情で淡々とボケを重ねる増田のキャラが、オーソドックスにつっこむ岡田のキャラと必ずしも噛み合っていないという欠点があった。

 その欠点を克服するために新たに導入されたのが、「岡田をスベらせる」という試みだった。常識の代弁者であるはずのツッコミ役があえてでしゃばってスベりに行くというのは、漫才のセオリーをくつがえす革新的な行為だった。

 だが、これが見事にハマった。岡田が大きくスベることで、それを冷たくあしらう増田との間に絶妙なコンビネーションが生まれた。また、スベリ芸を披露して隙を作ることで、岡田は次第に万人に愛される癒やし系キャラへと転身を遂げていった。

 実のところ、彼らのネタを冷静に見ると、岡田は漫才の中でそれほど派手にスベりまくっているわけではない。基本的には、増田がボケて岡田がつっこむのが彼らのスタイルである。そこにスパイスのように一度か二度だけ岡田が大胆にスベるくだりを挟むことで、その部分が見る者の心に鮮やかなイメージとして刻み込まれていく。増田の繰り出す精密でシャープなボケで笑い、岡田の陽気なスベリキャラで笑う。こうして彼らは、1つの漫才の中に2つの違った種類の笑いを盛り込むことに成功したのである。

 そしていつしか、岡田のスベリキャラは漫才の枠を超えて独り歩きを始めていった。バラエティ番組に出ると、岡田は声を張って堂々とスベりに行く。スベリキャラの烙印が押されている以上、彼に怖いものは何もない。何しろ、スベリキャラを極めた芸人には、失敗するということがないのだ。面白いことを言えば周りは笑うし、スベったらスベったでその状態が笑いになる。この「スベリ芸人はスベらない」という逆説的な構造にはまり始めた頃から、彼はスベリ芸のスペシャリストになった。

 実は芸人にとって本当に重要なのは、スベるかスベらないかではない。スベってもそれを周りに拾ってもらえるか、見た人に笑ってもらえるかが大事なのだ。共演者や芸人たちからもこよなく愛されている岡田は、日本一の「陽気なスベリ屋」である。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

イベント告知
・ラリー遠田presents
「お笑いトークラリーinネイキッド」
【日時】9/20(日) OPEN18:00/START19:00
【会場】ネイキッドロフト
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/920in.html>

・ラリー遠田presents
「第2回お笑いトークラリー」
【日時】10/7(水) OPEN18:30/START19:30
【会場】ロフトプラスワン
【出演】ラリー遠田、業務用菩薩
【Guest】大谷ノブ彦(ダイノジ)
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/1072.html>

漫才少年―ますだおかだの漫才台本

ボケ642発+ツッコミ619発=漫才58連発。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
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最終更新:2013/02/07 12:52
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