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『自己啓発の時代』牧野智和氏インタビュー

ニッポン人の「自己啓発」好きを強化させた「オウム」「勝間」「an・an」の功罪

 そのように考えて、しばしば「本当の自分を見つけよう!」という特集をしている「an・an」にまず接近したのですが、読み進めていくと、「心理学化」という表現は必ずしも最適ではないなと思うようになりました。というのは、「本当の自分を見つけよう!」「自分を変えよう!」といった記事に心理学者は確かに登場するのですが、出てくる登場人物の多くが、心理学者と似たように「あなたらしく生きましょう」とメッセージを発信し、ハウツーを示していたからです。霊能力者の江原啓之さんから、作家の林真理子さんから石田衣良さんまで、多少の違いはあれどです。するとこれはもう「心理学化」というよりは、心理学者もその一部になっているもっと大きなムーブメントとして事態を捉え直さないといけないなということになって、自己啓発に関連するメディア一般の研究に仕切り直しをしたんです。

■現代に必要なのは「煽り」と「癒し」!?

──自己啓発書の社会的機能とはどのようなものでしょうか?

牧野 これもいろいろ言い方はあると思いますが、最もシンプルにいえば「煽り」と「癒し」だと思います。今の世の中にはもうこれという決まり切った定番の生き方や考え方なんてない、今日の厳しい環境を生き抜いていくためにはあなた自身がしっかりして、考え方や行動の仕方を改めていかねばならない、この本ではそのハウツーを教えますよ、というタイプが「煽り」です。一度ちゃぶ台をひっくり返したうえで、目標を再設定してくれて、そこに向けて頑張ろうというタイプです。「癒し」は、そんなに他人に合わせないで、ありのままのあなたでいていいんだよ、「本当のあなた」を探し直しましょうね、この本ではそのハウツーを教えますよ、というタイプです。「煽る」にしても「癒す」にしても、自分自身の内面を、啓発書の著者が示す何らかの技法を使って掘り下げ、明らかにし、鍛えたり高めたりするわけですから、いずれにしても内面への感度は高くなります。いってみれば「自分らしさ」への感度が高まるということです。

──そのように「煽り」と「癒し」により自分らしさを求められ続けるとどうなるのでしょうか?

牧野 どこまで行くのかは私にもよく分かりません。ただ、ある研究会で言われてから最近よく考えているのですが、そもそも小説やエッセイ、というより、本というメディアにも本来自己啓発的な機能はありますよね。小説を読んで自分の世界がガラっと変わった、というような経験がある方は少なくないと思います。自己啓発書はそういった機能を端的に直接的に提示するものですよね。映画の宣伝などでも「感動した」「泣いた」といった観覧者の感想が使われることが最近多いと思うのですが、メディア一般の受け取り方や期待の仕方も、部分的にそうした直接的な効用を求める方向に向いているのかなと思います。ただ、直接的に刺激を与える方法というのはそんなにパターンがないように思えるので、だんだんと手詰まりになっていくのではないでしょうか。私にも自己啓発書の執筆オファーがあったぐらいですから(笑)、啓発書ブームはもうピークを去っている、少なくとも手詰まり感があるのかもしれませんね。(構成=本多カツヒロ)

牧野 智和(まきの ともかず)
1980年東京都生まれ。2009年早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。現在、早稲田大学他で非常勤講師を勤める。またPRESIDENT Onlineで「ポスト『ゼロ年代』の自己啓発書と社会」を連載している。

最終更新:2012/10/19 16:00
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