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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.309

金メダリストの肉体を札束で手に入れた男の狂気! 米スポーツ界の暗部『フォックスキャッチャー』

foxcatcher01.jpg自分の存在を認めてほしい。過剰に膨らんだ承認欲求が呼び寄せた悲劇『フォックスキャッチャー』。実際に起きた金メダリスト殺害事件のドラマ化だ。

 巨匠ウィリアム・ワイラー監督の後期の作品『コレクター』(65)は、コミュニケーション能力に難のある男が“理想の女性”を自宅に監禁して飼育するという歪んだ愛情を描いた異色サスペンスとして人気が高い。今年のアカデミー賞で監督賞ほか5部門にノミネートされているベネット・ミラー監督の『フォックスキャッチャー』は、『コレクター』とよく似ている。大きな違いは、コミュニケーション能力に難のある男が飼育しようとしたのは“理想の女性”ではなく“理想の男性”だったという点。そして『コレクター』がフィクションだったのに対し、『フォックスキャッチャー』は1996年に起きた金メダリスト射殺事件を題材にしているということだ。

 『コレクター』の内気な青年フレディは美大生ミランダを拉致する際に蝶の採集に使うクロロホルムを使用したが、『フォックスキャッチャー』の主人公ジョン・デュポンの手口はもっと巧妙だった。札束を積み、さらに相手の虚栄心をくすぐり、まんまと“理想の男性”を釣り上げてみせる。相手を傷つけることなく、金メダリストの美しい肉体を手に入れるのだった。

 ジョン・デュポンは名門デュポン家の御曹司だった。デュポン家はアメリカ独立戦争の際に黒色火薬を製造販売して急成長を遂げた米国屈指の大財閥。生まれながらに富と権力が与えられていたジョン・デュポンは広大な自宅の敷地内にトレーニングセンターを設け、そこに有望なアマチュアレスリングの選手たちを集め、チーム・フォックスキャッチャーを名乗った。富と権力だけでは飽き足らず、自分が育てた選手にメダルを獲らせることで名声も手に入れようとした。1984年のロサンゼルス五輪ですでに金メダルを獲得していたデイヴ&マーク・シュルツ兄弟はそのための大事な切り札だった。それなのに何故、ジョン・デュポンは“理想の肉体”を持つ金メダリストを自分の手で射殺する凶行に及んだのか? 実録映画『カポーティ』(05)と『マネーボール』(11)で高い評価を得たベネット・ミラー監督は、ジョン・デュポン、デイヴ・シュルツ、マーク・シュルツの3人の男たちの金と汗と筋肉にまみれた危うい関係をあぶり出していく。

 ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)がまず目を付けたのは、シュルツ兄弟の目立たない弟マーク(チャニング・テイタム)のほうだった。ロス五輪で兄デイヴ(マーク・ラファロ)はフリースタイル74キロ級で金メダル、弟マークも同82キロ級で金メダルに輝いた。ところが米国では大金が飛び交うMLBやNFLに比べ、アマチュアレスリングはマイナー競技に過ぎない。金メダリストながら、マークは経済的に困窮していた。一方の兄デイヴは社交性に富み、人望も厚いことから、コーチ業などの仕事に恵まれ、妻や幼い子どもたちと慎ましくも幸せに暮らしていた。マークにとって兄デイヴは優秀なレスリングパートナーであると同時に、いつも兄のおまけにしか自分は見てもらえないという劣等感を抱かせる存在だった。そんなマークに対し、初対面のジョン・デュポンは驚くほどの高年棒に加え、デュポン家の敷地内にある最新トレーニング施設と住居を無料で提供すると申し出てきたのだ。

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