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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.309

金メダリストの肉体を札束で手に入れた男の狂気! 米スポーツ界の暗部『フォックスキャッチャー』

foxcatcher02.jpg幼い頃に両親が離婚したシュツル兄弟。弟のマーク(チャニング・テイタム)は筋肉バカに、兄デイヴ(マーク・ラファロ)は人格者に育った。

 大財閥の御曹司は言う。「君は祖国アメリカのために体を張って闘った。それなのに祖国はあまりにも君に冷たいじゃないか」。マークにはジョン・デュポンが救世主のように思えた。幼い頃に両親が離婚するなど、ジョン・デュポンとマークには意外な共通項があった。兄デイヴは長年トレーニングを共にしてきたマークの旅立ちに一抹の淋しさを覚えるも、弟が独り立ちするいい機会だと快く見送る。デュポン家のバックアップのお陰で、マークは1987年の世界大会で金メダルを獲得する。だが、ジョンとマークの蜜月関係が続いたのはここまでだった。

 自分が育てたマークが世界大会で優勝したことをジョン・デュポンは母ジャン・デュポン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)に誇らしげに報告する。大豪邸に引きこもるように暮らす彼にとって、母親に認めてもらうことが最大にして唯一の存在証明だった。だが、母親は「レスリングは下等な競技」とまるで興味を示さない。伝統と由緒あるデュポン家ではレスリングよりも馬術競技のほうがグレードは高く、金メダリストのマークはサラブレッドよりも格下の扱いだった。

 母親に褒めてもらいたい。その一心でジョン・デュポンはブレーキが効かない暴走列車と化していく。兄デイヴも執拗な札束攻勢の前に、ついに陥落した。さらに全米レスリング協会に多大な資金援助を行ない、自分が率いるチーム・フォックスキャッチャーを米国の代表チームにしてしまう。指導力に優れたデイヴを中心にチーム一丸となってソウル五輪を目指すことになるが、弟マークは面白くない。せっかく兄の支配下から離れ、フォックスキャッチャーのエースになったはずだったのに、これでは元の木阿弥ではないか。次第にマークはジョン・デュポンの影響で覚えたドラッグや酒に溺れていく。ジョン・デュポンもまた、自分に対してYESマンにならないデイヴの大人の対応ぶりに苛立ちを覚える。ジョン、マーク、デイヴの3人はあまりにも危うい均衡の上で五輪に挑もうとしていた。

 『アベンジャーズ』(12)で無敵の超人ハルクを演じたマーク・ラファロと『マジック・マイク』(12)のストリッパー役で見事な裸体を披露したチャニング・テイタムがマッチョな兄弟役で共演。言葉を交わさずとも組み合っただけでお互いの体調や心理状態が分かり合えるほどの濃い絆で結ばれた兄弟役をリアルなレスリングシーンを交えて演じてみせるが、そこにコメディ映画『40歳の童貞男』(05)で人気を博したスティーヴ・カレルがまったくの無表情で絡むことで不穏な空気がレスリング場に立ち込める。直接的なホモセクシャルシーンはないものの、特殊メイクで競り上がったスティーヴ・カレルの巨大な鼻はジョン・デュポンのプライドの高さと性欲の強さを象徴したものだろう。

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