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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.5

三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ

yatta-mandoronjosama.jpgドロンジョさま(深田恭子)の「スカポンタン!」ほか決め台詞とお約束のギャグが
次々と飛び出す実写版『ヤッターマン』。三池崇史流おバカ歌舞伎の誕生だ。
(c)2008タツノコプロ/ヤッターマン製作委員会

 日本における国民的セックスシンボルといえば、『アース渦巻』のCMやTBSドラマ『水戸黄門』でおなじみ由美かおるが長年そのポジションを占めてきたが、今やその地位は実写版『ヤッターマン』でボンテージルックに身を包んだ”ドロンジョさま”こと深田恭子のものとなった。それほど三池崇史監督の『ヤッターマン』におけるドロンジョさまは光り輝いている。ドロンジョさまを崇めるボヤッキー(生瀬勝久)、トンズラー(ケンドーコバヤシ)を配下に従え、悪いことに夢中になっている彼女の姿は、生き生きとして眩しいほどだ。『ヤッターマン』は、およそヒーロー映画とは思えないほど、正義と悪の関係がねじれた倒錯した世界となっている。

 しかも、ドロンジョとヤッターマン1号(櫻井翔)は追いつ追われつの関係を続けることで、微妙な関係となっていく。お互いに相手のことを、自分が持っていないものを持った、もう1人の理想の自分として意識し始める。それは、まるで江戸川乱歩のミステリー『黒蜥蜴』の女盗賊・緑川夫人と名探偵・明智小五郎の”危ない関係”のようだ。マスクで顔の半分を隠したドロンジョさまが自分の内面を告白するシーンは非常に切ない。顔を隠して、心は隠さず。こんなヤバい役をフカキョンに演じさせるとは……。三池版『ヤッターマン』を観た健全な少年少女たちは、将来立派なボンテージマニアに成長するに違いない。

 それにしても三池作品における”ねじれたドライブ感”はどこから来たものなのだろうか。『DEAD OR ALIVE』(99)では哀川翔と竹内力が地球を滅亡に追い込み、『ビジターQ』(00)では内田春菊が『甲賀忍法帖』ばりの毒汁殺法を披露する。『IZO』(04)では人斬り以蔵役の中山一也が時空さえ飛び越えて、登場人物を次から次へと斬りまくる。『ヤッターマン』では正義のヒーローが救うべき健気な少女(岡本杏理)はヤッターマンが活躍する度に悲惨な目に遭い、さらにドクロストーンの影響で「ジャンボパチンコ」と書かれた巨大看板の一部が破損して大変な状況に陥ってしまう。三池監督特有の”ねじれたドライブ感”がフルスロットルになればなるほど、三池作品の世界はぐにゃぐにゃと歪んでいく。

 三池監督の自伝『監督中毒』(ぴあ出版)によると、大阪で過ごした高校時代はバイク仲間たちが、さらに助監督時代にはテレビドラマのスタントマンが、三池監督が見ている目の前でバイクに乗ったままデッドゾーンへと飛び込んでいったとある。安易な言葉でいえば、生き残った人間の使命感が、映像における表現の限界へと追い立てているということか。ハンドルを右に切れば地獄の一丁目、左に切れば底なし沼のような退屈な日常、という危険な一本道を三池監督はフルスロットルで疾走し続けている。

 『監督中毒』では助監督時代に印象に残っている作品のひとつに、井上梅次監督が手掛けた土曜ワイド劇場『天国と地獄の美女』(82)を挙げている。江戸川乱歩のミステリー『パノラマ島奇談』を原作にしたもので、1977年から始まった「土ワイ」の長い歴史の中でも傑作中の傑作と言われる作品である。横浜放送専門学校(現・日本映画学校)にもロクに通っていないダメ助監督だった三池監督は、この作品の撮影現場でスタントマンの代わりに危険なスタントをやってみせ、井上監督に気に入られたそうだ。以来、自分の居場所がつかめたとある。

 『天国と地獄の美女』は、自分の理想郷”パノラマ島”の実現化を妄想する男(伊東四朗)が夢を叶えるために犯罪を重ねる、歪んだ芸術信仰と愛欲のドラマだ。ゴールデンタイムでよくテレビ朝日は放送したものだと感心する。いつか三池監督も『パノラマ島奇談』を撮ってくれないかと夢想する。多分、三池監督がつくった”パノラマ島”に上陸すると、そこは『オーディション』(99)、『殺し屋1』(01)、『妖怪大戦争』(05)といった幾つもの美しい悪夢が溶け合って、ぐるぐると渦巻いていることだろう。そこでは哀川翔や遠藤憲一、『46億年の恋』(06)の原作者である真樹日佐夫先生といった三池監督ゆかりの人々に加え、かつてのバイク仲間やスタントマン、助監督時代に師事したプログラムピクチャーの大御所たちが、連日にわたって鬼のような大宴会を開いているに違いない。そして中央に置かれた台座の上では、ドロンジョさまが妖しく微笑んでいる。
(長野辰次)

yatta-mansannningumi.jpg(c)2008タツノコプロ/ヤッターマン製作委員会

●『ヤッターマン』
監督/三池崇史
脚本/十川誠志
撮影/山本英夫
出演/櫻井翔、福田沙紀、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、岡本杏理、阿部サダヲ、深田恭子ほか
配給/松竹、日活
全国公開中
http://www.yatterman-movie.com/

●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
[第4回]フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

三池崇史 DVD-BOX限定版

振り切れている。

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最終更新:2012/04/08 23:04
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