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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第7回】

“加害者”にされた者たちが週刊誌に語る「痴漢冤罪」の恐怖と屈辱

motoki0727.jpg「週刊ポスト」8月7日号、「フライデー」
8月7日号より

部数低迷が叫ばれ、その存在意義が問われども、テレビや大手新聞が”書けない”真実を暴く週刊誌ジャーナリズム──。毎週発売される各週刊誌の中から、伝説の編集長・元木昌彦が選りすぐりのスクープ大賞を認定!!

●第7回(7月21日~7月27日発売号より)

第1位
「『痴漢収監(実刑1年6か月)の父よ!』愛娘(20代)が『闘いの日々(4年)』『慟哭の別れ』を告白」(「週刊ポスト」8月7日号)

第1位
「『痴漢冤罪』あなたにも訪れる『人生破滅の危機』ケース1警察を信じて出頭した元小学校教諭の『誤算』」(「フライデー」8月7日号

第2位 
「さくらパパに警視庁が重大関心」(「週刊文春」7月30日号)

第3位 
「『巨人』坂本勇人『3歳年上トップモデルにメロメロ通い愛』」(「フライデー」8月7日号)

 選挙戦が始まったばかりだというのに、もう、選挙の話は腹一杯だ。できれば8月30日投票ではなく、8月2日(日曜日)にしてくれないかね。新聞はもとより、週刊誌も選挙予測ばかりで読むところがない。週刊誌の編集者って、他に関心がないのかね。

 民主党が勝つのはほぼ間違いないのだろう。しかし、勝った後、鳩山首相を操る黒幕、小沢一郎は何をやろうと考えているのだろうか。彼は、政権奪取すればいいなどという単純な考えの持ち主ではない。彼の本音を、小沢を20年追いかけてきた松田賢弥記者を擁する「現代」が、なぜ追及しないのか。「本当は恐い小沢独裁政権の本音」といった企画をやればいいのに。編集者に大事なのは、大多数の人が同じ方向を向いているとき、少し違った角度からものを見て、問題提起できることだ。編集者諸君、心してほしい。

 さて今週の第3位は、巨人の若大将、坂本君(20歳)の初スキャンダル。彼のお相手も、楽天田中マー君と同じように3歳年上のモデル・里海(さとうみ・23歳)さん。彼女は講談社発行の女性誌「with」のモデルをやっているという。

 知り合って1ヶ月というから、超スピード愛である。彼女のマンションで2時間。その後出てきた坂本君、車を運転代行に任せ、ご帰還。あっぱれな初陣である。

 しかしその後、20試合振るわず、首位打者から滑り落ちているというから、彼女、もしかすると「サゲ○○」?

 第2位は、民主党の困ったチャン・横峯参議院議員の何とも不可思議なスキャンダル。知り合いの、東京幡ヶ谷にある鹿児島産黒豚しゃぶしゃぶがウリの店「K」に、プロレスラーたちが乱入し、店のカネ30万円を恐喝して逮捕される。

 仕組んだのは、その店の共同経営者で、経営をめぐってのいざこざからだそうだ。

 しかしその後、訴えた側が告訴を取り下げようとすると、警察から待ったがかかる。このもめごとの背後には、横峯参議院議員がいて、それに警察が重大な関心を持っているというのだ。

「新潮」も同じ記事をやっているのだが、こちらは、横峯議員のロング・インタビューに成功、それがなかなか面白いのだ。

 横峯議員も、逮捕の危機が迫っているという危機感はあるようで、答えながら、次第に支離滅裂になっていく。

「事件は(警察の)でっち上げじゃないかと思うんですよ。私、いろいろと調べたのよ。代々木署は、『K』の大得意さんなの。(警察に)聞いてみたら? 何回あの店に行きましたかって。焼酎もらったりして。俺は警察の癒着だと思う。捜査っていうのは平等じゃなければいけないのに、捜査のやり方を見ていると、私の名前が出てきたから、警察は躍起になっているみたい」

 また、逮捕される可能性はないですかと聞かれて、「逮捕されたら、された時のことだよ。そういうことで逮捕するんだったら、俺なんか小便したって逮捕されるんじゃない」

 この事件、何か裏がありそうな気もするし、ただの与太話のようにも思うし、よくわからない事件ではあるが、この議員が「お粗末」であることは確かなようだ。

 第1位は2本。ともに痴漢の話だが、他人事ではない恐さがある。

 フライデーは、元小学校教諭・小林卓之さん67歳。膠原(こうげん)病という難病を患い、58歳で退職している。05年3月18日、西武池袋線「飯能行き」に乗っている時、痴漢といわれ、目撃者だという男と、学生風の女性と一緒に、駅事務所に行った。

 実は、小林さんは難病のために指が動かないのだ。したがって、「無実だから潔白は証明できる」そう思った小林さんだが、それから人生が暗転する。

 苛烈な警察の取り調べ。病のことも、電車内の状況を説明しても、何一つ聞こうとしない裁判官。一審は懲役1年10ヶ月。

 顔出しして実名で語る小林さんの表情は穏やかだが、決意の程は見て取れる。

 ポストのほうは、周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のモデルになり、無罪を主張し続けたが、最高裁で刑が確定し、7月23日に収監された石川洋明さん(仮名・50代)の娘さんの悲痛な告白だ。

 石川さんは一流企業の管理職だったが、05年1月21日の朝、通勤途中だったJR横浜線の車内で痴漢と疑われ、長い法廷闘争の末、懲役1年6ヶ月が確定してしまった。

 人間誰でも過ちは犯すことがある。だが、本当にやっていれば、ここまで無実を主張するだろうか。

 多くの容疑者たちは、逮捕された段階で和解に応じ、相手に金を払ってしまうのだ。中には、そうしたことを利用して、痴漢の被害者を装って金を稼いでいる女性もいるという。

 ほとんどの痴漢犯罪は、被害者の証言だけで、目撃者がいても、曖昧なことしか言えない場合が多い。そして、裁判官は始めから「推定有罪」の予断を持って裁いているとしか思えない。

 こうした痴漢裁判こそ、裁判員制度を取り入れて、民間人の常識で事件を、一から見つめ直すことが必要なのではないか。満員電車の中で、女性から「この人痴漢です」と指された瞬間、その人の人生は取り返しのつかないことになる。

 痴漢は犯罪だが、冤罪を防ぐ方策を真剣に考える時期にも来ていると思う。

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)ほか

元木昌彦の【週刊誌スクープ大賞】INDEX
【第6回】 『250議席差で民主圧勝!?』衆議院解散総選挙「週刊現代」の大胆予測
【第5回】 師匠が愛弟子をバッサリ!「ヨゴレ芸人から首相へ ビンカンな下半身には要注意!」
【第4回】 週刊現代シルバー世代向けトルコ風呂もいいけど、ポストの民主党政権予測は他誌を圧倒!
【第3回】 新潮・文春、二大硬派週刊誌を押さえ、今週も『フライデー』が熱い!
【第2回】 週刊誌ジャーナリズムの原点  『女性自身』の長寿連載の真価
【第1回】 「フライデー」の”百聞は一見にしかず”強硬グラビア

「この人、痴漢!」と言われたら―冤罪はある日突然あなたを襲う

人ごとじゃないよ

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最終更新:2009/11/02 20:09
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