日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 冒頭10分間がスゴい! ピクサー最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』 

冒頭10分間がスゴい! ピクサー最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』 

ka-ruoji.jpg(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 映画興行界は、いよいよ正月シーズンに突入。数多くの大作・話題作が封切られるこの時期、どの映画を見るか迷ったら、まずはピクサー・アニメーション・スタジオの新作『カールじいさんの空飛ぶ家』を観ることをオススメする。初の3DCG長編アニメーション映画『トイ・ストーリー』(1995)に始まり、数々の名作アニメを生み出してきたピクサーの記念すべき長編第10作目で、12月5日から公開される。

 ピクサーといえば、新作が必ずヒットする”打率10割”のスタジオ。もちろん興行収入の多さが、そのまま作品の質の高さと必ずしも結びつくものではないが、ピクサーに限っては、常にビジネス的成功と作品評価の高さを両立させている稀有なスタジオなのだ。

 たとえば、2000年代にピクサーが送り出した過去6作の日本興収と全米興収、そして世界的に有名な映画批評サイト「ROTTEN TOMATOES(ロッテントマト)」の評価を遡っていくと、08年『ウォーリー』(日本興収=40億円/全米興収=2.2億ドル/評価=95%)、07年『レミーのおいしいレストラン』(39億円/2.0億ドル/96%)、06年『カーズ』(22.3億円/2.4億ドル/75%)、04年『Mr.インクレディブル』(52.6億円/2.6億ドル/97%)、03年『ファインディング・ニモ』(110億円/3.4億ドル/98%)、01年『モンスターズ・インク』(93.7億円/2.6億ドル/95%)となっている。製作予算、公開規模にもよるが、このクラスの作品なら全米で1億ドルを超えなければ失敗、2億ドルを超えれば大ヒットだ。洋画不況の日本でも、現在なら10億円を超えれば御の字で、20億円以上なら大ヒットといえるだろう。『カーズ』が興行・評価ともにやや落ち込んだものの(逆を言えば、ピクサー作品は出来の良さと興行の質が比例するという健全な状態になっている)、それでもヒット作と呼べる十分な興収と高い評価を確立しており、その他の作品に至っては驚異的な高評価と興収を得ている。

 そんなピクサーの最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』の主人公は、78歳の偏屈なじいさん、カール・フレドリクセン。亡き妻エリーとの思い出が詰まった一軒家でひとり静かに暮らしていたが、周囲の再開発で立ち退きを迫られ、自身も老人ホームへ入れられそうになる。全てを失いそうになったその時、カールは人生最初で最大の大冒険へ旅立つことを決意。エリーが生前行きたいと願っていた南米の幻の滝「パラダイス・フォール」を目指し、家に無数の風船をつけて大空へ飛び立つ。

 ピクサー映画のこれまでの主人公は、玩具や虫、モンスター、魚、車、ロボットなどなど、人間でないものばかり(『Mr.インクレディブル』はスーパーヒーローが主人公だが、純然たる人間とはちょっと違う)。今回、初めて人間が主人公で、しかも、なんら特殊な力もなく、若くも可愛くもかっこよくもない、78歳の腰痛持ちの偏屈なじいさんだ。人間以外のものに命を与え、愛敬たっぷりのキャラクターを生み出してきたピクサーなのに、今回はそんな主人公で大丈夫か? と不安に感じるかもしれないが、それは杞憂に終わるはず。

 何よりオリジナル作品にこだわり、ストーリーテリングを大事にするピクサーだから、観客を飽きさせない。特にカールと妻エリーの幼い日の出会いから、青年になって結婚し、幸せな夫婦生活を送り、やがて老いてエリーが先立っていく……その数十年の年月を10分間で見せる冒頭が秀逸。セリフのないモンタージュで幸福な歳月の積み重ねを見せる感動必至のシーンで、ラストで泣かせる映画というのはよくあるが、冒頭で泣かせる映画というのも珍しい。あっという間にカールじいさんに感情移入し、風船で家ごと空に飛び立ったあとは、意外な冒険物語が待ち受けていて笑いあり、スリルありで充足感たっぷりだ。

 近年流行のスクリーンから飛び出す3D版の上映もあるが、この映画は従来の2Dでも楽しい。優れたCG技術を持つピクサーだが、なによりもキャラクターやストーリーがしっかりしていれば、新しい技術に頼らずとも、それだけで十二分に楽しめるのだということを証明してみせる作品でもある。
(文=eiga.com編集部・浅香義明)

『カールじいさんの空飛ぶ家』
<http://eiga.com/movie/53508/>

『カールじいさんの空飛ぶ家』映画評
<http://eiga.com/movie/53508/critic/>

ウォーリー

29世紀のラブストーリー

amazon_associate_logo.jpg

【関連記事】 表情豊かなドロイド同士のボーイ・ミーツ・ガール『ウォーリー』
【関連記事】 名だたる映画賞を総ナメ! 斬新な手法で描く話題作『戦場でワルツを』
【関連記事】 人間関係に疲れた現代人を癒す、『ボルト』犬との深い絆 

最終更新:2009/12/04 15:08
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

小池百合子都知事周辺で風雲急!

今週の注目記事・第1位「小池百合子元側近小島敏...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真