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“最後の巨匠”山田組の現場を追う『山田洋次 なぜ家族を描き続けるのか』

32367185.jpg『山田洋次 なぜ家族を描き続けるのか』
(著:新田匡央/ダイヤモンド社)

 1月31日、山田洋次の最新作『おとうと』が全国で封切られ、興行成績は『アバター』『オーシャンズ』に次いで3位(2月2日付)、gooのユーザーレビューでは1位と、好調な滑り出しを見せている。78歳の巨匠は衰えることを知らず、老いてますます盛んな様子だ。

 山田洋次、といえば『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』(脚本のみ)、『学校』の各シリーズで有名だが、近年、新たな境地を拓いている。ことに、『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『武士の一分』の時代劇三部作は、東北の下級武士を描いた新しい時代劇として高い評価を受け、『たそがれ清兵衛』は第76回アカデミー賞外国映画賞にノミネートもされた。


 この本『山田洋次 なぜ家族を描き続けるのか』(ダイアモンド社)は、ライターの新田匡央氏が、『おとうと』の撮影現場に密着取材して描いた、山田洋次&山田組のドキュメンタリーだ。丁寧な筆致で、古風だが結束の固い山田組の息遣いをそのまま感じることが出来る。山田洋次の生い立ち、助監督時代の苦労、映画についての考え方など事細かに記され、「山田洋次パーフェクト・ガイド」といえる内容となっている。

 「寅さん」においても、時代劇においても、山田洋次は徹底して家族、庶民、弱者を描き続けてきた。庶民の姿にこそ時代の本質があるのだ、と。10年ぶりの現代劇となった『おとうと』において、鶴瓶が演じる鉄郎は、借金だらけの放蕩者で家族から煙たがられている。「どうしようもない弟(叔父)でも家族なんだ。家族は切り捨てられないんだ」という家族のありようを、無駄を切り捨てタイトになろうとする現代社会に投げかけているのだ。

 こういった山田洋次の家族観は、撮影現場においても反映されている。映画を作るうえで、撮影スタッフは家族同然。どんなスタッフにも長所があるとし、決して切り捨てない山田のヒューマニティーが、この本から窺い知ることが出来る。この『山田洋次 なぜ家族を描き続けるのか』は、監督とスタッフという、もうひとつの家族の物語といえる。製作の裏側を覗いたら、本編もより一層楽しめるはずだ。
(文=平野遼)

新田匡央(にった・まさお)
1966年横浜市生まれ。1990年明治大学商学部卒業。10年の会社員生活を経て、2000年よりライター活動開始。主にスポーツ、社会、経営などの分野で活動中。本書が、初の単行本執筆となる。

山田洋次―なぜ家族を描き続けるのか

山田流・家族論

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最終更新:2010/02/06 18:00
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