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シンポジウム「2010年ARの旅:新たなる未知への挑戦」レポート

ARによるイノベーションは可能か? 常時ログオンがもたらす未来を探る

 3月10日、慶應義塾大学三田キャンパスにてAR Commons第2回シンポジウム「2010年ARの旅:新たなる未知への挑戦」が開催された。

 AR Commonsとは「AR(Augmented Reality)技術を快適に利用するための多次元的空間活用を促進する非営利の任意団体である」(設立趣意書より)。今回は東京・渋谷で行われたAR実証実験の報告をまじえつつ、サブタイトルにあるように”「ヒト=Inforg」がクラウド化してゆく時代のプラットフォームとは?”を考えるものとなった。

 冒頭、岩渕潤子教授(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)から「今回はInforg(info+org)というキーワードが多用される。ヒトが携帯端末化するのか、情報が人間化するのか。ヒト(と、そのマシン)がクラウド化したらどうなるのか」「ヒトがクラウド化するとはどういうことか。いままではデバイスにログオンして情報に触れていたが、決してログオフしない状態。その場合、起動メッセージはどこへ行ってしまうのか」という議題提案がなされた。やや抽象的だが、このLuciano Floridi(現代哲学者)による論文「The Fourth Revolution」をとっかかりとした発想を皮切りに、ARに関係した広範なスピーカーが、己が領分について語り合う、という形式で、シンポジウムは進行していった。

「アンビエント、あるいは”統合的”な認識とは何か? ステルス戦闘機のペンキは日本製だが、ステルス戦闘機から想起される全体的な印象は米国である。日本を支えていく産業の、イノベーション・サイクルのやり直しをするときに、何がいちばん求められるか。日本企業は優れた才能を持っていてディテールでその能力を発揮するが、ペンキといった”部分”ではなく”全体”を作らなくてはいけない。強固なイメージを形成できるかは、継続的な対話、リニアな思考と、物語を作る力にかかっている」

 テクノロジーをサービスにしていくとき、物語として見せる力が日本は弱いのかもしれない。エンジニアとアーティスト、サイエンティスト、ヒューマニストなど、人文系の人々との対話が必要だ──この岩渕教授の提言を皮切りにシンポジウムは始まった。

 基調講演は牧野二郎(牧野総合法律事務所弁護士法人、所長)による「AR空間は誰のもの?」。手付かずであるAR空間の所有権は、法的には誰のものなのか。牧野所長は「登録手法はない。やったもの勝ち」と言う。

「権利義務の衝突は、人間の欲望が誘因となる。いい法律がある国ほど、とんでもない国だと思ったほうがいい。ARは物件論と債権論がせめぎあっていく場所。欲望のままに前へ進むか、一歩も進まないか。ARを規制する法律はありません」

 現状の法律と照らし合わせ、土地の所有権を突き詰めたとき、ARは地球空間をもう一回考える刺激になると、牧野所長は考えているようだ。

「邪魔する法律は変えなきゃいけない。法律を足かせに思わないで前に進んでいくことが重要だ」

ar_smp03.jpg建築家の渡辺誠氏(手前)
「建築は書き換え可能なメディアになかなかならない。
ハードウェアがそこにあるということは、いかんとも
しがたい。書き換え不可能な建築は今後とも残る。積
極的に残すか、仕方なく残すか、しょうがないから
残ってるというものが大部分になる。日本は考えて
作ったわけじゃなくて適当に作ったのが残っている」
松葉一清氏(奥)
「都市とミュージアムの関係、都市と技術の関係について、
この世界をどう編集するかという能力が問われている」

 このあとは中国料理円卓的ハイパー・ディスカッション。井口尊仁(頓智ドット株式会社、CEO)がイントロダクションを務め、のち4つのテーマをのべ19人のスピーカーが語り合った。

 議題提案を受けて「2010年代は常にモバイルで常にソーシャルで常にアンビエント」と言う井口は、滅多にやってこないゼロベースで考える機会──ARによるイノベーション──は重要であるという趣旨の発言を残し、本編へとバトンを渡す。

 渋谷での実証実験報告を主とした「拡張する都市」、太秦映画村での試験的活用(携帯端末によるガイド)、町の中に入っていくARと書き換え不可能な建築について触れた「拡張するミュージアム」ののち、作家の新城カズマとAR三兄弟の長男・川田十夢が登壇。「拡張する物語」について語った。

 自著『15×24』とセカイカメラのコラボ、ARならぬARG(Alternate Reality Game、代替現実ゲーム)『エアノベル』に携わった新城は作家とファンの交流について、「まったく何もないところから始めろと言われたら難しい」と語る。

「文庫全6巻の合意があったあとで遊びができた。変化できない小説のあとにゲームを出すという順番」

 一方、ここのところノイタミナ絡みでの露出が多い川田にとって、アカデミックなこの日のシンポジウムは半ばアウエーの空気が漂う。それでも「ぼくはちょっとお茶を濁そうと思います」と言い、いつものようにAR芸で場を和ませようとスピーチ壇へ向かうが、なんとホールのディスプレーが川田のMacを認識しないというアクシデントが発生! パワーポイントによる紙芝居? を見せようと企んでいた川田の目論見は見事に外れ、「これ縮小現実ですね」とショックを隠せないひとこと。

ar_smp02.jpg終始マイペースのAR三兄弟
長男・川田氏

 結局、話芸でなんとかしたものの、東のエデンAR試写のときの「Tweetのログが流れてしまって表示できない事件」、ノイタミナ発表会のときの「Ustream落ち&『もやしもん』のマーカーを一瞬認識しない事件」につづくアクシデントに、呪いのジンクスでもあるのではないか? との疑念を抱かずにはいられない一件だった。なお発表できなかったパワーポイントはAR Commons公式サイトにアップされている(http://www.arcommons.org/2010/03/310arppt.html)。

 最後の「拡張するビジネス・モデル」では、渋谷で同日にふたつのイベントが進行し、タグがまざりあった報告もなされ、再び冒頭の「AR空間は誰のものか」というテーマが首をもたげつつお開きに。

 あえてひとりあたり5分という制限時間を設けたパネルディスカッション、マシンガントークを余儀なくされた各スピーカーは、語りきれなかったものを次回以降のシンポジウムにぶつけてくるだろうか。

 ARによるイノベーションを推進しようとあの手この手を企むAR Commons、今後もその動向に注目したい。

<プログラム>
◆Proposal for Discussions/議題提案
岩渕潤子(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科、教授)
(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
◆Key Note/基調講演:
牧野二郎(牧野総合法律事務所弁護士法人、所長)
◆Rapid Fire Talk Sessions/中国料理円卓的ハイパー・ディスカッション
「Introduction:」井口尊仁(頓智ドット株式会社、CEO)
「Augmented City/拡張する都市」加藤文俊(慶應義塾大学環境情報学部、准教授)、小方靖(株式会社 東急エージェンシー TMS本部マーケティング局 第1マーケティング部)、津田賀央(TMS本部IC局 iビジネスデザイン部)、高野公三子(株式会社パルコ『アクロス』編集長)、森卓也(ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント株式会社取締役 兼 アートブック Sync Future プロデューサー)
「Augmented Museum/拡張するミュージアム、または、Augmented Platform for Artistic Expression/拡張する芸術表現のプラットフォーム」
岩渕潤子(前述)、渡辺誠(建築家、岡山県立大学教授、淡江大学(台湾)講座教授)、松葉一清(武蔵野美術大学教授、建築評論家)、加藤舞((株)東映京都スタジオ 時代劇ルネサンスプロジェクト)、池田修(BankART1929代表/PHスタジオ代表)
「Augmented Story/拡張する物語」
赤松正行(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、教授)、新城カズマ(SF作家)、川田十夢(AR三兄弟)
「Augmented Enterprising/拡張するビジネス・モデル」井口尊仁(前述)、早川大地(音楽家/Sweet Vacation、東京エスムジカ)、森卓也(前述)、牧野二郎(前述)、池上徹彦(宇宙開発委員会・委員長)
◆Wrap Up/総括
赤松正行(前述)
(取材・文・写真=後藤勝)

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最終更新:2010/03/16 21:00
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