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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第76回

土田晃之 元ヤン、家電、ガンダム……でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた

tsuchidateru.jpg『土田晃之のガンダムにもの申す! 』
(角川グループパブリッシング)

 かつて、本連載の中で品川庄司の品川祐について取り上げたとき、「なぜ品川は嫌われるのか?」という問題について考察してみた(記事参照)。品川には、有吉弘行が命名した「おしゃべりクソ野郎」というあだ名に代表されるような、ネガティブなイメージが常についてまわっている。

 だが、ここで、品川に対してある1人の芸人を対置してみると不思議なことがわかる。多趣味で物知り。ガンダムや家電にも詳しい。不良少年だった過去がある。ひな壇を主戦場とする。品川と多くの共通点がありながら、品川ほど世間に嫌われてはいない芸人。そう、土田晃之だ。

 土田はなぜ、品川ほど露骨に嫌われていないのだろうか? 土田と品川はどう違うのか? 土田だけが持っている特性とはいったい何なのか? それらの点について考えてみたい。

 土田の芸人としての最大の特徴は、自分を切り売りしない芸風である、ということだ。土田は、少なくともテレビの中ではあまり自分のことを話したがらない。また、コンビ解散後はお笑いネタを作るという自己表現からも遠ざかってしまった。彼はあくまでも、竜兵会の広報部長として、子だくさんの愛妻家として、ガンダム愛好家として、サッカーファンとして、といった肩書きを背負って登場し、自分以外の何かを紹介するというポジションに立って話を進めていくのだ。

 土田は、自分自身をさらけ出して前に出ようとすることはない。半自伝的小説『ドロップ』を書き下ろして、自分の過去を臆面もなく美化してフィクションに仕立ててしまった品川とは、その点が大きく異なる。現代のひな壇芸人が置かれている過酷な状況を知りながらも、自分が主役になりたいという欲望をどこまでも失っていないのが品川だとすれば、そのレースに初めから参加していないのが土田である。土田は、上島竜兵の面白さについて熱く語ることはあっても、自分のことをひけらかそうとはしない。

 これは、土田が自分自身のイメージをある程度突き放して見ているからこそできることだろう。キャラが薄くてさほど特別な人生経験を持っているわけでもない自分が、必死で目立とうとしても笑いには結びつかない。それならば、誰もが好きなものや、誰もが興味のあるものを自分が紹介することで笑いが取れればそれでいい、と。

 言い換えればそれは、彼が自分の「俗物性」という欠点を「一般人の気持ちがわかる」という利点として生かした、とでも言うことができる。「子煩悩」という属性も、「ガンダムファン」という属性も、世の中の多くの人が共通して備えていて、共感を得やすいジャンルのものである。土田は常に、獲物がいるところで狩りをする。自分だけの狩り場を無理に開拓しようとはしない。効率を最優先して、できることだけをこなそうとするのである。

 早口で仏頂面という特徴からしても、土田は決して親しみやすいタイプではない。だが、彼の提供する話題は常にわかりやすくかみ砕かれた形になっていて、受け手を納得させたり笑わせたりするだけの腕がある。態度は無愛想ではあるが、彼は最終的にはきちんと大衆の味方につく。そこが土田の魅力である。

 彼が「ひな壇の神」と称されているのは、自分の役割をわきまえてそれをまっとうするということにかけて、彼の右に出る者がいないからだ。土田は、自分を消して相手を輝かせる。だからこそ、熱狂的に好かれたりしない代わりに、忌み嫌われることもない。土田は、生来の俗物性を原動力にして、どこに配置されてもきっちり仕事をこなす「最強の凡人」である。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

お笑いトークラリー特別編
「ラリー遠田×岩崎夏海 ~もしM-1に挑む若手芸人がドラッカーの『マネジメント』を読んだら~」
お笑い評論家・ラリー遠田が、話題沸騰のベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)の著者である岩崎夏海さんをゲストに招いて、「お笑い」をテーマに熱いトークを繰り広げます!

【日時】5月4日(祝)
【出演】ラリー遠田
【Guest】岩崎夏海
【会場】ネイキッドロフト
OPEN18:30 / START19:30

●ラリー遠田「おわライター疾走」 <http://owa-writer.com/>
●岩崎夏海「ハックルベリーに会いに行く」 <http://d.hatena.ne.jp/aureliano/>

前売りチケットは3月26日からローソンチケットで販売。(Lコード:36287)
問:tel.03-3205-1556(Naked Loft)

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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の”お笑い批評”をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための”ツールとしての批評”でありたい」

土田晃之のガンダムにもの申す!

知識を芸に変える。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由
【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」
【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは
【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」
【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い
【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする
【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは
【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」
【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論
【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道
【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」
【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」
【第63回】青木さやか 仕事も家庭も……不器用に体現する「現代女性の映し鏡」
【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」
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最終更新:2013/02/08 12:18
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