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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第49回

ウィキリークスと情報漏洩は”正義”なのか”犯罪”なのか?【前編】

──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地──

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──11月、尖閣諸島沖で起こった中国船と海上保安庁巡視船の衝突事件を映した流出映像が動画サイトで共有され、世間を賑わせた。だが、それ以上に重大な機密資料が流出していたのだ。公安警察が作成したものとされるそれらの資料には、警視庁が監視対象にしているイスラム系外国人の詳細なプロフィール、監視している捜査員らの情報、さらには、国際会議での警備体制といった文書まで含まれていた。表向き警視庁は、流出した資料を本物とは認めていない。国際政治アナリストの菅原 出氏は、こうした出来事が無理矢理告発者を作っていると指摘する──。

【今月のゲスト】
菅原 出[国際政治アナリスト]

神保 今回は情報流出・情報漏洩をテーマに議論を進めていこうと思います。情報流出というと、まず尖閣ビデオの流出問題を思い浮かべる方も多いでしょうが、もしかすると、それよりはるかに重要な情報の流出事件が、10月末に起こっていたようですね。

宮台 人の命にかかわる情報だから、「もしかすると」ではありません。海自の尖閣極秘情報流出問題がハレーションで吹き飛ぶほどです(笑)。

神保 「これを隠すために尖閣のビデオを流出させたのでは」と言う人もいるくらい、重大な情報漏洩です。流出したのは”テロリスト”を監視している警視庁公安部外事三課の捜査情報。政府は流出した情報が本物であることを認めていませんが、国家公安委員長の岡崎トミ子氏が記者会見で「遺憾」を表明してしまったので、本物であるとみて間違いなさそうです。

 また海外でも、『ウィキリークス』(匿名で政府や企業、宗教にかかわる機密情報を公開するウェブサイト)によって、米軍の極秘軍事情報が漏れる事件が発生しました。僕は情報漏洩や内部告発が新しい次元に入ったような印象を受けます。情報漏洩の理由についても、正義に基づいて行われているだけではなく、そうではないのになぜか漏れている、という部分もあるようなので、しっかり検証しておいたほうがいいと考えました。

宮台 昔なら、内部告発者が新聞に情報を流すとき、記者に直接会わないといけなかった。例えばアメリカ映画のジェイソン・ボーン・シリーズ第2作『ボーン・スプレマシー』で、主人公ボーンが新聞記者に極秘情報を手渡そうとしますが、失敗して新聞記者が狙撃されてしまうエピソードが描かれます。内部告発につきものだったこうしたリスクが、免除されました。

神保 今回のテーマのひとつであるウィキリークスについて造詣が深い、国際政治アナリストの菅原出さんにお越しいただきました。まずは警視庁資料の流出問題から見ていこうと思います。

 流出が起きたのは10月28日から29日にかけて。警視庁公安部外事三課および警察庁や愛知県警が作成した文章が114点、インターネットに流出しました。当初はウィニー経由でウイルスに感染した署員のパソコンから情報が漏れてしまったという見方がありましたが、次第にそんな生ぬるい話ではなかったことがわかってきました。

 産業技術研究所の高木浩光さんによれば、少なくともウィニー経由でウイルスに感染して、ウィニー経由で情報が広がっていくという、いつもの漏洩パターンではなかったそうです。今回ウィニーはもっぱら情報の拡散のために使われたそうで、ウイルス感染による流出ではなく、何者かが意図的に情報をウィニーを使って拡散させた形跡があるようです。また、犯人はツイッターを使って、最近のツイートの中に「APEC」とか「警視庁」というキーワードが含まれていた人を検索で探し、ウィニーの情報のありかを教えています。その場所というのが、ルクセンブルクのレンタルサーバーで、そのサーバーにウィニーをインストールして、そこから情報を拡散させたのだそうです。しかし、そもそもその犯人が警察の捜査資料をどこから入手したのかはわかっていないとか。

菅原 これらの情報にアクセスできるのは、幹部クラスだけだということを聞いていますので、なんらかの意図があって流出させたと考えるほうが適切だと思います。

神保 不可解なのは、例えば田原総一朗さんや堀江貴文さんのような、ツイッターでフォロワーが多い人のところに書き込まず、特に目立たないユーザーだけに向けて発信した点です。それも、たった10人。これは手口の稚拙さと考えられなくもありませんが、菅原さんはどう見ますか?

菅原 メンションの相手を選ぶ基準は、「APEC」「警視庁」という言葉を含むツイートをしたというだけでした。誰にメンションするかで犯人のプロフィールを推定できる面もありますが、そうした判断材料を一切排除しているのだとも考えられます。

神保 今回流出した書類が保存されている警視庁のサーバーは、ネットワークからは完全に遮断されていたということです。しかも、尖閣ビデオのように、そこから誰でも簡単にUSBで持ち出せるわけではなく、情報が暗号化されているので、そのパソコンでしか閲覧ができなくなっていたそうです。海保ビデオのときよりはセキュリティがしっかりしていたようですが、そういう技術的な部分も含めて、やはり内部の犯行の疑いが高いと?

菅原 複数の警察関係者に聞いた限り、やはり内部の犯行の疑いが高いと考えられます。警察関係者はウィニーに絶対タッチしないし、たとえ私用であっても使ったら罰せられる。しかも、ファイル形式を、わざわざ環境を選ばずに読むことができるPDFにしている点を考えても、意図的だとしか考えられないですね。

神保 それでは、なぜ内部の人間がそういうファイルを公表しなければならなかったのか。まずは、今回のファイルが具体的にどういうもので、どんな価値があるのかを伺えますか?

菅原 さまざまな種類のファイルがありますが、最も秘匿性の高いデータは、警察がテロリストではないかと疑っている人たちの身元──彼らの家族も含めた、詳細なプロフィールです。さらに彼らを監視する手法や、捜査側の人々のプロフィールまで載っています。

神保 公安警察の顔写真付きプロフィールや、捜査協力者の個人情報も載っていますね。麻布にあるイスラム教のモスクが監視の対象になっていて、そこに出入りしている人間の中にアルカイダと関係があると思われる人が2名いるとのこと。そして、彼らについてモスクの人間や前妻が証言した内容も載っています。流出した情報からうかがえる捜査の実態や、流出したファイルの価値は、どれほどのものなのでしょうか?

菅原 テロリストなのか疑わしい人たちの情報がたくさん入っています。ただし、もっとコアな、テロリストに近い人たちのデータは、まだ流出していないと思われます。犯人は、一番ヤバい情報は出していない可能性も考えられますね。

神保 そうすると、犯人の目的はなんだったと考えられますか?

宮台 僕ら素人から見ると、公安外事三課のやっていることが「しょぼい」という印象を受けます。「ネタ元がこれかよ」と。外事三課の威信が傷つくような印象を、あえて素人に与えようとしている。それが犯人の意図なのかなと思うのですが、いかがですか?

最終更新:2010/12/24 10:30
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