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荻上チキの新世代リノベーション作戦会議 第9回

明日にはあなたも当事者に!? ”関心鎖国”日本で始めるべき対話とは【前編】

若手専門家による、半熟社会をアップデートする戦略提言

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「日本の社会運動の今後は、 スーチー氏に学ぶべし!」
ゲスト/大野更紗[作家]

──社会の現状を打破すべく、若手論客たちが自身の専門領域から、日本を変える提言をぶっ放す! という本連載、今月のゲストは、大学院生で作家の大野更紗さん。難民問題をはじめ、ビルマの民主化運動の研究と支援をしながら、自身も自己免疫疾患系の難病と闘う大野さんと、”関心鎖国”たる日本の現状となすべきことを考えます。

荻上 ここ2回の本連載では、対中韓関係で高原基彰さん、対ロシア関係で廣瀬陽子さんにご登場いただくという「外交シリーズ」で日本の内憂外患について考えてきましたが、今回はさらに一般の日本人が目を向けることの少ない「外」と「内」、2つの難題と身をもって闘われている大野更紗さんをお訪ねしています。

 まず「外」の難題としては、昨年9月に日本でも第三国定住(当事国の紛争や迫害を逃れて近隣国で生活する難民を、より安全な国へ避難させて庇護する国連の難民支援制度)での受け入れが始まったビルマ難民の問題。大野さんは大学生時代から、NGOなどを通じてビルマ民主化運動の研究と支援に携わられています。

 そして「内」の難題が、大野さんに2008年にふりかかった自己免疫疾患系の難病です。ある日を境に、全身の筋肉が激痛を発して思うように動かなくなり、自ら難題の当事者となっていく過程で初めて気づかれた発見や思いを、ウェブ上での連載エッセイ「困ってるひと」(ポプラ社WEBマガジン「ポプラビーチ」)にて綴られ、ツイッターなどでも大きな話題になっており、僕も大ファンです。未読の方はすぐにググるように。ガチで必読です!

 多くの人にとっては「世界の外部」に位置づけられていても、当事者にとっては命がけの難題というものが、この社会にはたくさんあります。ご自身が大変エクストリームな経験をされてきた大野さんのユーモアあふれる文章は、そうした当たり前のことに気づかせてくれる。大野さんに伺いたいお話は山ほどあるのですが、まずは「外」たるビルマの問題に興味を持ちだした経緯からあらためて教えていただけますか。
 
大野 文化系女子憧れの若手論客のチキさんから、そんな導入をされてしまうと、すごく緊張してしまいます(笑)。わたしが個人的な体験として、最初にビルマ難民問題に出会ったのは、上智大学に入学した04年、1年生の夏でした。最初はデリダとかフランス思想に漠然と憧れがあってフランス語学科に入っていたので、アジアにはまったく興味がなかったんですけど、「アジアに関して何かテーマを選んで、フィールドワークをしなさい」という授業があったんですね。で、わたしはフランス憲法の大家である樋口陽一さんの、早稲田大学の構内に忍び込んでプチストーキングしてしまうくらいのファンだったんですが(笑)、その著書『個人と国家』(集英社新書)の中に、「アウンサンスーチーさんのことは放っておけない、ラングーンのことを忘れてはいけない」という一節があったんです。その一行をきっかけに「じゃあ、やってみよう」と思い立って。

荻上 のめり込むと一直線になってしまうタイプなんですね(笑)。

大野 そうそう(笑)。それで、たまたま上智大のある四谷に、日本のビルマ難民支援の中核を担うNGO「ビルマ市民フォーラム」の事務局があったんですね。そこへ電話して紹介してもらったビルマ難民の方にインタビューをしたのが、最初のかかわりでした。その方は、1988年の民主化運動で学生活動家としてスーチーさんの警護などを担当していて、軍事政権の手でビルマの刑務所に数年間投獄され、拷問を受けた経験もある人です。そうした生々しい話はもちろん衝撃でしたが、それ以上に心が痛んだのが、彼が置かれている生活状況でした。彼はタイを経由して日本に逃れてきたんですが、日本に滞在するために何年も国と裁判で争わなければならなかったことや、月曜から土曜まで毎日深夜に青果工場で底辺の労働者として一生懸命働きながら、そんな環境下で唯一休める日曜も、ビルマの民主化問題への支援を日本の市民に必死に訴えていること。彼のほかにも、入管に収容されて何年も苦しんだりしている人々がたくさんいて、難民の置かれているつらい立場があまりにも顧みられない日本の「難民鎖国」ぶりに、すごくショックを受けたんです。

 それで、05年にスマトラ沖大地震の救援活動へ参加し、タイの被災地に行ったその足で、初めてビルマ国境上の難民キャンプに行きました。そこで難民の人たちと生活を共にしたり、一人ひとりのライフヒストリーを聞き取りしたり。一方で日本では、刑務所のような品川や牛久の入管に収容されてる難民申請者の人たちにひたすら会いに行って。ビルマ語もできないし、弁護士でも行政書士でもないし、伝言代わりくらいにしかならない。なんの助けもできないんですけど、とにかく難民が生きる現場を見聞きする活動に没頭したのが、わたしの大学生活でした。

■「関心鎖国」からいかに 人々を解き放つか

荻上 今この国は、「難民鎖国」だけでなく、貧困やマイノリティへの差別など、自分の視界に見えない人々の問題に対する関心が全般的に低下した「関心鎖国」状態にあります。少なくとも、期待値より低いという認識といらだちがあるから、僕らは「社会問題化の作業を急げ」と叫ぶ役を担うわけです。大野さんがビルマに関心を持たれたのは偶発的ではあるけれど、思想書等に触れながら、おそらく社会参加への「スタンバイ状態」に身を置いておられたんでしょうね。しかし、いざ自分がそういう関心を持つ身になると、そうでない人々から浮いてしまう感覚、あるいは逆に、すでに市民団体などで「運動」に携わっている人々とのギャップなども感じられたのでは?

大野 はい。やっぱり学科でこんなことをやっているのはわたしだけなので、「更紗ちゃんはえらいよね」と遠巻きに見られるだけでした。難民支援のNGO関係者や弁護士やジャーナリストの方たちはほぼ父親や母親世代なので、同世代の人とほとんど関心を共有できないことは、とても孤独でしたね。大学から一歩踏み出せばそこにある現実なのに、まるで別世界としか見られなくて。

 一方で、今の日本の人権系NGOや市民運動って多くがベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)やインドシナ難民支援などの流れを汲んでいますが、例えば、主だった団体がひとつのビルにいくつもまとまって入っているような、すごく狭い世界なんですね。日本の市民運動の創成期を支えてきた団塊世代の人たちは、もう自分たちの信念や運動の方法論が良くも悪くも確立されている。その下の世代の30~40代の人たちは、運動への熱意はあっても結局食べていくことに精いっぱいで、活動は疲弊してしまって、20代以下の若い人を育てる余裕もない。そういう中で、社会運動が掲げる人権や貧困といった言葉と、「普通の人」との断絶がどんどん大きくなっていってしまっているという実感が大きかったです。

 そういう、「どうやったら伝えていけるんだろう?」というフラストレーションが自分の中で最高潮に高まったのが、07年9月にビルマ全土で起きた民主化蜂起です。「今度こそ、ビルマが変わる」と血が沸いた。でも、結果は軍政の武力弾圧で何百人もの犠牲者が出て、数千人という人たちが投獄されました。寝る時間もなくPCに張り付いて情報を集めてニュースの翻訳をし続けるか、イベントの運営に奔走するか、議員会館にロビイングのお手伝いで走っていく日々の中、次第に無力感やストレスがたまっていきました。

最終更新:2011/01/28 10:30

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