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夢かうつつか フジモトマサルが贈る世にも奇妙なウェブ漫画『夢みごこち』

yumemi.jpg『夢みごこち』(平凡社)

 いきなり私事で恐縮でありますが、筆者は「牧場で太ったプロレスラーのような女性に羽交い絞めにされ、毒物を注射される」という夢をよく見ます。別段そのようなことはされたくないのですが、一体何の意味をもっているのでしょうか。フロイトによると、夢は無意識の顕れで、性衝動の象徴であるとのことですが、余計なお世話です。

 夢とは得てして謎めいていたもの。『夢みごこち』(平凡社)は、人気イラストレーター・フジモトマサル氏がオンラインマガジン「ウェブ平凡」で連載していた作品をまとめたものだ。18の夢にまつわるオムニバス・ストーリーで構成されており、それぞれの話は奇妙に連なり、絡まりあい、時間空間を飛び越えて展開されてゆく不思議な漫画だ。登場人物はすべて犬・猫・羊・獏・ハリネズミ・カンガルーなどの動物で、特に冒頭第一話のひきこもりカモノハシはラブリーでキュート。イラストレーターならではのブレのない筆致で、絵本のように眺めていても楽しい本だ。

 特筆すべきはやはり作者の描く動物のとぼけた風合い。作中の動物たちはどれもかわいらしく、夢警察に追われたり、巨大イカに乗って脱獄したりする異常事態に直面しながら少しも深刻にならず、どこかのほほんとしている。夢を扱ったオムニバスという点で夏目漱石『夢十夜』、黒澤明『夢』に近く、ロングの風景描写を多用し、不条理な世界を描くさまはどこか『月刊漫画ガロ』(青林堂)の作品を思わせる。夢刑法に従い「有罪の夢」を取り締まる夢警察などSF作品の要素もある。

 「邯鄲の夢」「胡蝶の夢」の説話のように、東アジア圏ではしばしば夢と現実は分けがたいものとして見るむきがある。夢は現実で、現実は夢であるかもしれない。『夢みごこち』はそんな夢作品の傑作であると言える。まったく”夢みごこち”の浮遊した読後感があなたを待っていることだろう。
(文=平野遼)

●フジモトマサル
漫画家・イラストレーター。著書に『ダンスがすんだ』(新潮社)、『今日はなぞなぞの日』(平凡社)、『いきもののすべて』(文藝春秋)、『二週間の休暇』(講談社)、『終電車ならとっくに行ってしまった』(新潮社)など。
公式ウェブサイト <http://www.fujimotomasaru.jp/>

夢みごこち

夢とは不条理なもの。

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最終更新:2011/02/27 18:00
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