日刊サイゾー トップ > その他 > サイゾーpremium  > 政府の説明責任が問われる時代! ウィキリークスは国家主権を揺るがすのか!?
萱野稔人の"超"現代哲学講座 第9回

政府の説明責任が問われる時代! ウィキリークスは国家主権を揺るがすのか!?

国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第9回テーマ「ネットの台頭で崩壊する情報の独占」

1104_kayano.jpg

今月の副読本
『技術への問い』

マルティン・ハイデッガー著/平凡社(09年)/2940円

 ドイツの哲学者・ハイデッガーによる、公演や論文をまとめた論集。技術が先鋭化の一途をたどる近現代において、時代の根本にあるもの、そしてその正体を見極めるべく、”技術の本質”に哲学的に迫った一冊。


 2010年はインターネットを通じた情報漏洩事件が立て続けに起こった年でした。日本でも、10月に国際テロに関する警視庁公安部の捜査資料がインターネットに流出したり、11月には、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の映像が、海上保安官の手によって動画共有サイトに公開され、流出しました。世界中にインパクトを与えたのは、なんといっても、ウィキリークスが10月下旬に40万点にも上るイラク戦争関連のアメリカ軍資料を、11月下旬には25万点に上るアメリカ外交公電を暴露したことでしょう。この暴露に対して、クリントン国務長官はただちに「暴露は米国の外交上の利益に対する攻撃というだけではなく、国際社会、同盟国、パートナーに対する攻撃でもある」とウィキリークスを非難しました(11月29日の記者会見)。イタリアのフラティニ外相に至っては、これを「世界の外交における『9・11』のようだ」とまで評しました。

 ここで考えたいのは、インターネットを通じたこうした機密情報の漏洩が、政治の枠組みをどのように変容させるのか、ということです。ネットを通じた情報の暴露や漏洩は、ある意味でITが高度に整備された情報社会では不可避なことです。現代では、ほとんどの情報の保存や伝達はデジタル化によってなされており、それは情報がクリックひとつで複製され、多くの人に伝播されてしまうリスクをもたらしました。

 20世紀ドイツの哲学者、マルティン・ハイデッガーが『技術への問い』の中で述べているように、こうした技術の進展に人間が抗うことはできません。そもそも技術、テクノロジーというのは、人間が自らの意思でコントロールできるものではなく、逆に人間がその進展によって、ものの知覚の仕方から、考え方、社会関係のあり方に至るまで規定されてしまうものなのです。したがって、政治の枠組みも、情報のデジタル化とネットワーク化によってなんらかの変容を被らざるを得ません。その変容の中身が今回、ここで取り上げたい問題です。

 まず言えることは、各政府は今後、情報の公表を前提として行動せざるを得なくなるだろう、ということです。ウィキリークスのようなサイトが登場したことで、政府の情報は常に暴露や漏洩のリスクに晒されていることが広く認識されました。このリスクはもちろん、管理体制の強化によってある程度は小さくすることができます。しかし、今述べたように、そのリスクは高度情報化社会においては不可避的なものである以上、情報の暴露や漏洩は常にあり得るという態度で行動するのが、各政府にとっての賢明で合理的な選択とならざるを得ません。

 では、政府が情報の公表を前提として行動することで何が変わるのでしょうか。それは、政府のアカウンタビリティ(説明責任)がより求められるようになる、という変化です。たとえば今回ウィキリークスによって暴露されたアメリカ外交公電の中には、イタリアのベルルスコーニ首相について「無能で空っぽ。現代欧州のリーダーとしての影響力なし」といった人物評や、イスラエルのネタニヤフ首相について「約束を決して守らない」といった人物評が含まれていました。どちらもアメリカの同盟国の国家元首をコケにしているわけですから、アメリカにとっては完全に面目丸つぶれです。しかし、情報の公表が前提とされるなら、こうした人物評が外交公電で流れることはなくなり、そのときは、たとえ漏洩しても説明責任が果たせるような情報に基づいて外交政策が立案されるようになるでしょう。このことは、情報の中身が単なる人物評ではなく、密約のようなトップシークレットである場合を考えると、ものすごい変化だというべきです。表には決して出せない裏の取引で外交が進められる余地が小さくなっていくわけですから。情報の公表が前提とされると、外交でも内政でも、裏の事情で物事が遂行されにくくなっていくのです。

 もちろん、だからといって政治の世界から機密が完全になくなったり、裏のやり取りが消滅したりするわけではありません。どんな世界にも秘密や裏の事情というのはあります。重要なのは、たとえ政治の世界から機密や裏のやり取りがなくならないとしても、それらもまた、表に出たときに説明責任が果たされるような形で処理されていく、ということです。ウラがオモテ化していくわけですね。

最終更新:2011/04/11 10:30
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

『24時間テレビ』強行放送の日テレに反省の色ナシ

「愛は地球を救う」のキャッチフレーズで197...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真