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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.184

人類を生み出した“創造主”との遭遇!! リドリー・スコットが物語るSF神話『プロメテウス』

 SF映画には、様々なメタファーが隠されている。現代社会が抱える問題点が「だまし絵」「隠し絵」のように潜んでいる。ギリシア神話をモチーフにした本作もそうだ。エリザベスたちがドームの中を探検する様子を観て、ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』(09)を連想する人もいるだろう。『100,000年後の安全』はフィンランドで建造中の放射性廃棄物最終処分所“オンカロ”をめぐる危険な話。核廃棄物は現在の人類の科学では処理することが不可能なため、固い岩盤を掘削した地下500メートルの巨大施設内に埋蔵することになる。放射能が人体に影響を及ぼさないようになる10万年後まで厳重に保存しなくてはならない。だが、数万年後の未来人類は、現人類が記した「ここは危険。立ち入るべからず」という警告文を解読することができるのかという問題が生じる。未来人類はオンカロを旧人類が残した古代遺跡と勘違いして掘り出してしまうのではないか。結局、オンカロの建造者たちは名案が思い浮かばず、未来人類がオンカロの存在に気が付かないことをただ祈るしかない。『プロメテウス』を観ていると巨人が残した実験施設とフィンランドの地下に造られたオンカロが頭の中で結びつき、単なるデジャヴでは済まない恐怖に襲われる。“プロメテウスの火”は人間の手に負えないものとして度々原子力の比喩として使われる。

prometheus3.jpgアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファ
スベンダー)。人間がその起源を探るように、
彼も「人間はなぜ私を作ったのか」という
命題を抱える。

 優れた文明を有した巨人たちは、へんぴな惑星で一体どんな実験を行ない、なぜ途中で放り出したのだろうか。日本の戦後史をかじった人なら、GHQを思い浮かべるかもしれない。「日本人の精神年齢は12歳」と語ったダグラス・マッカーサー元帥率いるGHQは、焼け野原状態だった敗戦国・日本に平和憲法の移植手術を試みる。戦争の放棄、男女平等、社会福祉を謳った進歩的な憲法を植え付けることで、小さな島国を世界で類をみない理想社会に育むつもりだった。だが実験開始から間もなくGHQ内部で主導権争いが起き、理想社会に育て上げる目的は初期段階で頓挫してしまう。朝鮮戦争の勃発により、日本は軍需景気により急成長を遂げることになる。

 かつてマッカーサーに「12歳の少年のよう」と称された日本人は、今は何歳になったのだろうか。いつまでも米国に逆らうことのない未成年のままなのか、それとも成熟することなく人生のピークを過ぎてしまったオッサンなのか。一方、人類を生み出した“創造主”から見れば、核廃棄物の処理方法も見つからないまま原発建設を続ける人類はいったい何歳に映るのだろうか。リドリー・スコット監督がこしらえた映画『プロメテウス』は、観る人間によって様々なイマジネーションが呼び起こされる不思議な箱庭だ。
(文=長野辰次)

prometheus4.jpg
『プロメテウス』
製作・監督/リドリー・スコット 脚本/ジョン・スペイツ、デイモン・リンデロフ 出演/ノオミ・ラパス、マイケル・ファスベンダー、シャーリーズ・セロン、イドリス・エルバ、ガイ・ピアーズ、ローガン・マーシャル=グリーン、ショーン・ハリス、レイフ・スポール、エミュ・エリオット、ベネディクト・ウォン、ケイト・ディッキー 
配給/20世紀フォックス映画 8月24日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー〈3D/2D同時上映〉、8月18日(土)、19日(日)先行上映あり <http://www.foxmovies.jp/prometheus>
(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX

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