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メジャーとインディーが拮抗した奇跡の年を活写 映画スター・金子正次が輝いた『竜二漂泊1983』

 『竜二』が公開された1983年はメジャーとインディーズが拮抗して火花を散らし合った奇跡的な年だったと谷岡氏は振り返る。1980年代前半、日本映画は確実に衰退の道へ向かっていたが、大島渚や深作欣二ら巨匠たちは円熟の境地に達し、その一方では森田芳光が『家族ゲーム』(83)で頭角を現わし、後に『おくりびと』(08)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞する滝田洋二郎ら若手監督たちがピンク映画から一般映画へ進出してくる。石井聰亙(現在は石井岳龍)、長谷川和彦、高橋伴明、相米慎二、井筒和幸、池田敏春ら気鋭の監督たちが「ディレクターズ・カンパニー」を立ち上げたのもこの時期だ。そして、低予算自主映画として完成した『竜二』は都内の名画座支配人たちに後押しされ、東映セントラル配給で全国公開される。面白いもの、本物を作りさえすれば、インディーズだろうがメジャー作品と同じように評価されると信じられていた時代だった。だが、やがてその熱気はバブルの騒乱の中へと取り込まれていく。

 金子正次は同年生まれのスター・松田優作の背中をずっと追い続け、ほんの一瞬だけ『竜二』の成功によって肩を並べることができた。そして、金子の死を病室で看取った松田も6年後には帰らぬ人となる。ハリウッド進出作『ブラック・レイン』(89)が大ヒットしている最中の訃報だった。金子も松田も病気を隠して映画に出演し、命と引き換えにスクリーンの中で輝きを放った。2人の命日は奇しくも同じ11月6日だ。金子とは劇団仲間で、柴田役を演じた菊地健二も87年に亡くなっている。『竜二』、そして『竜二』の舞台裏をドラマ化した『竜二フォーエバー』(02)に出演した松田優作の付き人・前田哲朗も、舎弟・ひろしを演じた北公次も亡くなった。谷岡氏はさらに書き綴る。『竜二』以前、それまでの任侠映画から実録ヤクザ路線への舵を切った深作欣二は『バトル・ロワイアルII』(03)の撮影中に息を引き取った。深作とのコンビで知られる脚本家・神波史男は谷岡氏に文筆活動のきっかけを与えてくれたが、その恩人ももういない。みんな、映画という魔物に魅入られ、映画を輝かせるために自分の命を削って散っていった殉職者たちだ。『竜二漂泊1983』はエンターテイメントの世界に身を投じ、そのまま彼岸へと渡ってしまった人々の名前を刻んだ紙の墓標でもある。

 『竜二』公開時の熱気を知る世代にとって、今の日本映画界は荒涼とした砂漠のように感じられる。劇中で竜二が呟く台詞、「この窓からぁ、なんにも見えねえなあ」という状況ではないか。もっぱらテレビ局が主導する「製作委員会方式」は映画が失敗しても誰もリスクを負わずに済むように生み出されたシステムだ。製作サイドがリスクを負うことはないが、観客の心に強烈な爪痕を残すこともない作品が次々と作られていく。『竜二漂泊1983』を読みながら、もう一度夢想してみる。もしも金子正次がその後も生きていたら、日本映画の風景は変わっていただろうか。テレビ局主導映画に背を向けて、インディーズ映画を作り続けただろうか。それともボロボロになりながらメジャーシーンで格闘を続けただろうか。

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