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構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

なぜこの9人と一匹は、これほどまでに愛おしいのか?『ど根性ガエル』第9話

dokonjogaeru0914.jpg日本テレビ『ど根性ガエル』

『ど根性ガエル』もいよいよ第9話となり、最終回も間近だ。主人公のひろし(松山ケンイチ)をはじめとする登場人物の9人、そしてピョン吉(声:満島ひかり)という一匹の平面ガエルとの別れも近い。この『ど根性ガエル』は、第1話からピョン吉との別れを想起させる形で描かれているが、視聴者である我々はピョン吉だけではなく彼ら9人と一匹、全員と別れざるを得ないわけで、当たり前の話ではあるが連続ドラマというフォーマットは寂しいものだ。作品が愛すべきものであればあるほど、その別れの寂しさは強くなる。

 本連載ではこれまで主にひろしとピョン吉について語ってきたわけだが、『ど根性ガエル』という作品は、いわゆる主人公である彼らだけではなく、すべての人物に対して惜しみない愛を与えて描く。9人と一匹。ひろし、ゴリライモ(新井浩文)、五郎(勝地涼)、ひろしの母ちゃん(薬師丸ひろ子)、京子ちゃん(前田敦子)、よし子先生(白羽ゆり)、梅さん(光石研)、町田校長(でんでん)、京子ちゃんのおばあちゃん(白石加代子)、そしてピョン吉。この中の誰一人と誰一匹欠けても成立しない世界として『ど根性ガエル』は描かれている。

 ではなぜ『ど根性ガエル』の登場人物はみな愛おしいのだろうか? それは、ドラマの作中で描かれていない部分がしっかりと描かれているからだ。少しわかりづらい言い方になってしまったが、たとえば『ど根性ガエル』の第9話では、こんな場面がある。

 ピョン吉のために何かしてあげたいと思ったひろしは、自らの発案で「ピョン吉パン」という新商品を作る。そのことを、宝寿司で店番をしている町田校長と京子ちゃんのおばあちゃんに告げる場面だ。町田校長は、実はピョン吉のシャツを着ているのだが、ひろしはそれに気付かず、ピョン吉に対する本心をこっそり吐露するのだった。人生の先輩である2人に対して「いやもう俺はね、大変なのよ。ダメじゃないのにダメなフリしたりね。大人なのにガキのフリしたりね」と冗談めかしながらも、ひろしは言う。

「悲しいこともつらいことも全部一緒。どっちか一人じゃダメなんだよ。ひろし&ピョン吉だからな」

 このセリフの奥の深さが『ど根性ガエル』の真骨頂だといえる。ドラマ『ど根性ガエル』は、原作マンガの16年後を描いた作品だ。この奇抜な設定にしっかりとした背骨を与えるために、『ど根性ガエル』がやらなくてはならないこととは何か。それは、描かれていない16年間を描くことだ。原作マンガの世界から今までに、何が起こり、彼らはどう過ごしていたのか。『ど根性ガエル』はその難問から逃げず、真摯に向き合っている。

 上記の「悲しいこともつらいことも全部一緒」というたった一言が、16年分のひろしとピョン吉を描いている。16年間もたてば、いろいろある。悲しいこともつらいことも。それらを全部ピョン吉と一緒に過ごしてきたという自覚がひろしにはあり、だからこのセリフが生まれている。これが、ドラマの作中で描かれていない部分をしっかりと描くということだ。そしてこういった心遣いがすべての登場人物に対してなされるからこそ、『ど根性ガエル』の9人と一匹はこれほどまでに愛おしい。

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