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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.418

セーフティネットが取り外された恐怖の現実世界! 下流層の叫び『わたしは、ダニエル・ブレイク』

セーフティネットが取り外された恐怖の現実世界! 下流層の叫び『わたしは、ダニエル・ブレイク』の画像2働きたくても働けない。ケイティ母子は生活保護を受けようとするが、役所の“水際作戦”に阻まれてしまう。

 ケン・ローチ監督の初期代表作に、田舎の炭坑町を舞台にした『ケス』(70)がある。学校でも家庭でもイジメられている少年ビリーが、野生のハヤブサを育てることに生き甲斐を見出すというドキュメンタリータッチの感動作だ。少年ビリーがハヤブサのヒナの世話を焼くことを心の支えにしたように、本作のダニエルも若い母子と出逢い、彼女たちとの交流が心の糧となっていく。シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)は、ロンドンから2人の子どもデイジー(ブリアナ・シャン)とディラン(ディラン・フィリップ・マキアナン)を連れてニューカッスルへと引っ越してきた。初めての土地で道に迷い、職業安定所が指定した面談時間に遅れてしまい、役人から「遅刻は厳禁です。次回の面談まで支援金を渡すことはできません」と冷たい言葉を浴びせられる。「子連れなんだぞ。遅刻ぐらい見逃せよ」とその場にいたダニエルが口を挟むと、ケイティ母子と一緒にダニエルまで警備員につまみ出されてしまう。役所が対応してくれないなら庶民同士で助け合うしかない。引っ越したばかりのケイティの家はトイレが故障しており、暖房器具も使えなかった。ダニエルはトイレを直し、プチプチシートを断熱材代わりに窓に貼付け、大工としての技能を発揮する。ケイティ母子が喜ぶ顔を見て、ダニエルは久々に心の安らぎを感じていた。

 食費にも困っているケイティ母子を連れ、ダニエルが訪ねる「フードバンク」も興味深い。フードバンクとは販売期限は過ぎていてもまだ充分に食べることができる食品、見た目のよくない不ぞろいの生鮮野菜や果実、パッケージに傷が付いていて売り物にならなくなった日用品などをメーカーやスーパーマーケットから無償で提供してもらい、生活困難者に配給している非営利団体。日本では近年「子ども食堂」が注目を集めているが、欧米ではフードバンクの活動が活発で、フランスではスーパーマーケットはフードバンクへの提供が義務づけられているそうだ。ケイティの育ち盛りの子どもたちは、お菓子やジュースにもありつけた。食材を手にしたケイティは、その場で泣き崩れてしまう。「貧しいのは君の責任じゃない。自分を責めちゃダメだ」とダニエルはケイティに優しく言葉を掛ける。

 人気スターは基本的に使わず、脚本もキャストに丸ごと1冊渡さずに、シーンごとにキャラクターになりきった芝居を求めるのがケン・ローチ監督の演出スタイルだ。冴えない郵便局員が自分の脳内にいるサッカー界のレジェンド、エリック・カントナに励まされて人生を立て直す『エリックをさがして』(09)、元不良少年とウイスキー好きな保護司との粋な友情を描いた『天使の分け前』(12)などコメディも得意とするケン・ローチ監督ゆえ、英国下流層のシビアな生活を伝える本作もユーモラスなものに仕立てている。主人公ダニエルを演じるのは、舞台でキャリアを重ねてきたコメディ俳優のデイヴ・ジョーンズ。ガンコ親父ながら、どこか愛嬌を感じさせるダニエルというキャラクターは、コメディ俳優として生の舞台に立ち続けてきたデイヴのパーソナリティーがあってのもの。口は悪いが、曲がったことは大嫌い。いかにも下町の職人を思わせるダニエルは、日本でも親しみを感じさせる人物像だろう。

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