現実的な悪どさや人間くささが魅力を放つ── 原点は『ズッコケ三人組』、映画化も話題の『サムライせんせい』黒江S介氏インタビュー
■幕末志士の人間くさい部分にこそ、魅力がいっぱい
──そんな先生の人生の中で、幕末に興味を持たれたのは、いつ頃なんでしょう。
黒江 これは高校の時です。歴史の先生がすっごく司馬遼太郎作品や『お~い!竜馬』(小学館)とか幕末期の作品が大好きで、授業にも取り入れていたんです。なんせ、偏差値が40くらいの高校だったので、マンガを使わなければ、みんな理解しづらくて。そんな中で、興味を持ったのが『お~い!竜馬』だったんです。
──歴史に興味を持たれると、そうした作品と史実がかけ離れていることにも気づくと思います。
黒江 竜馬ファンは段階を踏んでいくのだと勝手に思っているんです。まず、そういう司馬遼太郎とか、先人のすばらしい作品に触れて、ほんとに神格化されたヒーローの竜馬に憧れて好きになるんですね。
そこで夢を持った方はずっと心に英雄の竜馬像を持ち続けるんだと思います。でも、より深く知る内に「あ、これは創作だったんだ」「こういう側面もあったんだ」ということが、たくさんわかります。
そうなると「これほど実際の功績以上に英雄化される人物っていうのは、人間的に非常に柔軟性があるというか、想像力を駆り立てさせる面白い人物なんだな……」と。
その結果、新たな興味が沸いてきて、違う角度から魅力的に見えるようになる……そんな風に考えています。
ですから、私は神格化された面と偽善者然とした悪の魅力のある面、双方向から魅力を感じています。だから、これは違うなとか、がっかりさせられることはなかったですね。
──そういう多面的なとらえ方をしているから、作品の中に登場する志士たちが、とても人間くさい魅力を放っているのではないかと思います。
黒江 こういうことをいったら、大部分の方に怒られるかも知れませんが「日本を洗濯するぜよ」とか「日本の夜明けぜよ」とか「なんで戦争するんじゃ」とか言ってるような竜馬は得意じゃないんです。
──やはり、どんな偉人であっても人間くさい部分があるからこそ、魅力的なんじゃないかと、私は思います。
黒江 ええ、だったら、お金に汚くていろいろと企んでいて……あとまあいろいろ、いらないことをしたから、最後は暗殺対象にされたという竜馬。身も蓋もないんですけど、そういう竜馬がいてもいいんじゃないかと思ったんです。
──いろは丸事件なんて、竜馬が完全に当たり屋ですからね。
黒江 そうなんですよね。あのエピソードが大好きで、どうせ賠償金取れるなら銃火器をたくさん積んでいたことにして、上乗せしてしてふんだくろうとか……まあ実際そんな事を企んだのかは不明ですが、そういう人だったと妄想するのも楽しくて。その当時は沈んだ積荷を調べる術がないとわかってやったんじゃないかとか、本当に悪いなあ~いいな~と魅力が尽きません。
──Twitter(@Ssuke)のプロフィール欄には、ご自身で「出落ちマンガ」と描いてます。これは逆に自信の現れではないかと解釈したんですけど。
黒江 いや、もう。ホントにこれは自信でもなんでもなく、最初から広がりを見せるマンガだとは思ってなかったからなんです。ほんとに思いつきではじめたマンガなんです。サムライが現代に、ちょんまげを崩すこともなくいるのが、一番のオチなので、これは出オチ以外のなにものでもないなと、思って。単行本の表紙を見て、よもやシリアスと思う人はいないですよねえ。
──出オチかと思わせておいて、次第に深い話になっているので驚きました。
黒江 それも、すごく申し訳ない気持ちがあるんです。ギャグマンガを期待して、買ってみたら「ごちゃごちゃうるさいことをいってるな」と思われていたら、ホントすみません!
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