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破壊神ゴジラに命を吹き込んだ男の汗だく昭和史! CGにはない重みと妙味を感じさせる『怪獣人生』

 ぬいぐるみに入ることの大変さを東宝の上層部に訴え、手当てのアップに成功するなど中島さんにとってもありがたい存在だったテッチャンだが、第2作『ゴジラの逆襲』(55)以降は中島さんがメインでゴジラに入るようになり、『モスラ対ゴジラ』(64)の頃にはテッチャンは中島さんのサポート要員に回るようになっていた。ゴジラのぬいぐるみに入った際の2人の微妙な温度差が、中島さんに「元祖ゴジラ俳優」の称号をもたらすことになった。テッチャンのその後消息については不明だ。有名無名を問わず、様々なキャストやスタッフが撮影所に現われては消えていった。大部屋俳優でありながら、ゴジラ役で主演を張り続けた中島さんは希有な存在だったと言えるだろう。

 第1作『ゴジラ』で中島さんが入ったゴジラは、銀座和光の時計塔や勝どき橋を豪快に壊してみせた。第1作から第29作『シン・ゴジラ』(16)まで度々にわたって東京を壊滅状態に追い込んだゴジラだが、これまで一度も皇居を破壊したことはない。第1作『ゴジラ』では皇居を迂回するようなコースを辿っている。そのため、ゴジラ=太平洋戦争で散った戦没者たちの魂の集合体とする説が唱えられてきた。だが、実際問題として海軍に所属していた中島さんに、ミニチュアとはいえ皇居を破壊することができただろうか。ゴジラ役にプライドを持ち、上野動物園に通ってアジアゾウ、クマ、ハゲタカなどの動きを1日中観察し、ぬいぐるみの中で汗だくになりながら熱演を続ける中島さんに、本多監督も円谷英二もそんな演出プランが仮にあったとしても、口にはできなかったに違いない。

『ゴジラ』シリーズ以外にも、馬淵薫脚本の名作『空の大怪獣ラドン』(56)、『マタンゴ』(63)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66)などにも出演している中島さん。『怪獣人生』では「オヤジさん」と呼んで慕った円谷英二たちと過ごした撮影所での思い出を楽しげに語っている。本著の中で中島さんの言葉に怒りが滲むのは、70年に円谷英二が亡くなった翌年、東宝が大部屋俳優の一斉リストラを行なったとき。中島さんをはじめ希望者にはボウリング場など東宝の関連会社への再就職が斡旋されたが、社員スタッフは最初から役付きだったのに対し、大部屋俳優たちは平社員としての契約で、薄給を余儀なくされた。同じ映画をつくるために苦労を共にしてきた仲間なのに、社員と契約俳優とで差をつけられたことが中島さんは悔しかった。

 でも、晩年の中島さんは大スター級の好待遇を受ける充実した時間を過ごすことになる。初代ゴジラのスーツアクターとして中島さんは海外でも名前を知られ、ハリウッド版『GODZILLA』(98)の公開以降はファンイベントで引っ張りだことなっていく。奥さんや娘さんと共に海外旅行を楽しみ、各地のファンからサイン攻め&握手攻めに逢った体験をにこやかに振り返っている。俳優としてスクリーンに自分の顔が映る機会は少なかったが、ゴジラと一体化したことで中島さんは伝説のスーツアクターとして映画史にその名を刻んだ。

 中島さんが最後にゴジラを演じたのは、シリーズ第12作『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(72)だった。『ゴジラ対ガイガン』のラストシーン、怪獣島へと引き揚げていくゴジラは手を挙げて咆哮してみせる。中島さんいわく「ゴジラはこれで終わり」という決め芝居だったそうだ。
(文=長野辰次)

●『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』
著/中島春雄 発行/洋泉社 定価/925円(税別)

最終更新:2017/08/14 18:58
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