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モンスター映画はアカデミー賞での受賞なるか? オタク監督の新作『シェイプ・オブ・ウォーター』

1月に来日した親日派のギレルモ・デルトロ監督。『パシフィック・リム』(13)の菊地凛子と仲良く会見に登壇。

 日本時間で3月5日(月)に発表される米国アカデミー賞において、作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・助演女優賞ほか最多13部門でノミネートされている話題の映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。日本の怪獣映画&ロボットアニメへの惜しみなきオマージュを捧げたSF大作『パシフィック・リム』(13)で知られる、ハリウッドきってのオタク監督、ギレルモ・デルトロの最新作だ。これまでオタク心満載な特撮ドラマを撮り続けてきたギレルモ監督だが、本作はアカデミー賞会員たちも認める今日的なテーマ性を持ちつつ、いつも以上にキテレツかつ娯楽性の高い作品となっている。

 ストーリーは極めてシンプル。異類婚姻譚『美女と野獣』をギレルモ流に振り切ってアレンジした内容だ。時代は1962年。主人公のイライザ(サリー・ホーキンス)は米国の極秘研究施設で清掃員として働いている。イライザは言葉を話すことができず、気のいい同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)とは手話で会話をしていた。そんな彼女たちの働く施設に、南米から不思議な生き物である“彼”が運ばれてきた。水槽に潜む彼の正体は、アマゾンの原住民たちが神として崇めている半魚人だった。軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)は力づくで彼を服従させようとするが、逆に指を喰いちぎられるはめに。怒ったストリックランドは、電気棒で執拗に彼を殴りつける。

 南米から連れ去られてきた彼が虐待され続けるのを見かねたイライザは、昼休みにこっそり研究室に忍び込み、ゆで卵を水槽のふちに置くようになる。卵は彼の好物だった。ランチの差し入れをきっかけに、顔を合せるようになるイライザと彼。人間の言葉は通じない彼だったが、イライザの手話はボディランゲージとして彼にも理解することができた。やがてイライザはレコードプレイヤーを研究室に持ち込み、音楽やダンスを介して、彼と感情を共有しあうようになっていく。だが、研究のために彼が生体解剖される日が迫っていた。意を決したイライザは同じアパートに住む売れない画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)やゼルダに協力を求め、研究施設から彼を脱走させる計画を実行することに―。

異形の愛を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』。作品賞・監督賞・脚本賞・作曲賞など、アカデミー賞で最多13部門にノミネートされた。

 90年の伝統を誇るアカデミー賞は人権問題などを扱った意識高い系の社会派作品や実録作品が最高賞である作品賞を受賞することが多く、SF映画や怪獣映画は特殊メークなどの限られた賞しか与えられないのが相場だった。ギレルモ監督作のアカデミー賞ノミネートは、ファシストと少女との闘いをファンタジー要素を交えて描いた『パンズ・ラビリンス』(06)以来のこと。今回の『シェイプ・オブ・ウォーター』は往年のユニバーサル怪奇映画『大アマゾンの半魚人』(54)とその続編『半魚人の逆襲』(55)をベースにしながら、半魚人/モンスターを恐怖の存在としてではなく、自分たちの文明社会と相容れない他者として描いているところがアカデミー賞会員たちのハートに響いているようだ。口の不自由なイライザとアマゾンでひとりぼっちで暮らしてきた彼とが、手話や音楽を通して心を通い合わせていく過程が見どころとなっている。

 とは言っても、ギレルモ監督はアカデミー賞狙いで優等生タイプの作品を撮ったわけではなく、本作は相当にアブノーマルな内容でもある。心が通じ合うようになったイライザと彼は、人間とモンスターという壁を越えて愛し合うようになっていく。英国の名女優サリー・ホーキンスはフルヌードを披露し、バスルームいっぱいに満たされた水中で、半魚人とSEXするシーンが用意されている。

 映画史に残りそうな水中SEXシーンだが、決してエログロ描写にはなっておらず、ギレルモ監督ならではの映画愛に溢れたロマンチックなシーンに仕上げられている。1964年生まれのギレルモ監督はメキシコで過ごした少年時代、東映動画作品を熱心に観ていたこともあって、宮崎駿監督をリスペクトしていることでも有名。人間と半魚人とのラブストーリーという点では『崖の上のポニョ』(08)、水中で愛を確かめ合うイライザと彼の姿は『未来少年コナン』(NHK総合)の第8話でコナンとラナが海中で口づけを交わす名シーンを連想する人もいるのではないだろうか。

主演のサリー・ホーキンス、助演のオクタヴィア・スペンサー、ともにオスカー候補。男性社会の中で声を上げられない人々を演じている。

 1月末に来日したギレルモ監督は、会見の席で『シェイプ・オブ・ウォーター』に込めたメッセージ性をこのように語っている。

ギレルモ「我々とは異なる他者や異種を恐れてしまう今の時代に、この物語は必要だと考えました。でも、現代の設定にすると、なかなか耳を傾けてもらえません。それでお伽噺という形にしたんです。“アメリカを再び偉大に”という言葉がトランプ政権と共に言われるようになりましたが、本作の舞台となっている1962年が、まさにその偉大な時代でした。世界大戦が終わり、みんな裕福になり、未来への希望を抱いていた。宇宙開発が進み、ホワイトハウスにはケネディがいた。でも、現実的には1962年には今と同じように人種差別問題があり、ソ連との冷戦が続いていました。1962年と現代はまったく同じ時代として描いています。1960年代はテレビが普及して、映画業界の衰退が始まった時代でもありました。その点でも今と似ています。そんな時代への愛を、映画への愛を込めて描いた作品です」

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