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LGBTにペドフィリア、ズーフィリア、ネクロフィリアも加えるべき? 「やらせろ連帯」ではなく「やってしまわないための連帯」を

 今月14日からスタートした特集「性を語ること」。本稿では、タレント・文筆家の牧村朝子さんに「LGBTPZN」をテーマにご執筆いただきました。

 本記事で牧村さんは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとった、性的マイノリティを総称する言葉「LGBT」に、ペドフィリア・ズーフィリア・ネクロフィリアの頭文字をとった「PZN」を加えようという主張がネット上で見られます。「LGBTPZN」が生まれた経緯と主張の背景にある問題を丁寧に追いながら、性を語る際に必要な姿勢を提示しています。

▽特集「性を語ること」
***
「LGBTばかり権利を主張するのはおかしい。P(ペドフィリア/小児性愛)、Z(ズーフィリア/動物性愛)、N(ネクロフィリア/死体性愛)も加えて“LGBTPZN”とすべきだ」

 このような主張が、2018年4月2日現在、日本のインターネット上で見られます。そう聞いてあなたは、どう思われたでしょうか。それぞれのご意見があるかと思いますが、この記事でお伝えしたいのは次の2点です。

全ての人には、性のあり方にかかわらず、
1.好きなものを好きでいる自由がある。ただし、性暴力は他者の自由の侵害である。
2.嫌いなものを嫌いでいる自由がある。ただし、侮辱・蔑視・攻撃は他者の自由の侵害である。

 本人の性のあり方にかかわらず、何を思っても自由。ただし、合意なく他者を巻き込むことはその人の自由の侵害である……LGBTがどうの、PZNがどうのではなく、実はそんなシンプルな話なのではないでしょうか。

 ですが「LGBTPZN」には、「LGBTばかり正義ヅラしてうざい」という不満のもと、「あいつらPZNを加えたら発狂しそう」「炎上させよう」という狙いで広められた経緯があります。また「ポーランド人が言い出したらしい」という伝聞形の話があちこちに転載されていますが、なぜポーランドでLGBTPZNと言われたのか、きっかけとなったニュース記事を引いてきちんと解説している日本語記事はありませんでした。

 性を語ることが、炎上狙いの喧嘩や、「どっちが本物の弱者でしょう合戦」ではなく、歴史を踏まえた建設的な議論になるように。この記事では、きちんと元をたどって経緯をまとめます。

twitter、個人サイト、そしてまとめサイトへ 日本でLGBTPZNが広まるまで
 日本語圏のインターネット上でLGBTPZNと言われるようになるまでをたどると、「twitter→個人サイト→まとめサイト」という道筋が見えてきます。以下、時系列でまとめます。

▼2016年9月末 twitter上で「LGBTPZN」が複数ユーザーに言及される

・2016年3月
 英語とインドネシア語を話すユーザーがLGBTPZNについてツイート(記録にある限り世界初)

・2016年4月
 日本語ユーザーがLGBTPZNについてツイート(記録にある限り日本初)

・2016年7月22日
 後述するポーランドでのニュースをきっかけに、一人のユーザーがLGBTPZNについて肯定的な日本語ツイートを連発。続いて数人のユーザーに「炎上しないかな」「流行ってほしい」「怒られてほしい」などと言及される

・2016年9月
 LGBTPZNについてポーランド語のツイートがなされると、7月にLGBTPZNについて日本語ツイートを連発していたのと同一のユーザーが、またLGBTPZNについてツイート。

・2016年9月26日
 もともと一定数のツイートがある「#LGBT」「#LGBTさんと繋がりたい」ハッシュタグで、LGBTPZNについてLGBT社会運動のパロディ的なツイートをしたユーザーがいたことから、日本語ツイートが一気に増加。

参考:2016年9月当時、LGBTPZNがtwitter上で話題になるまでのツイート検索結果(2018年4月2日閲覧。以降、上記で言及したツイートが削除された可能性もあります)

▼2016年秋〜 LGBT社会運動を皮肉る個人サイト増加

・2016年9月26日以降
 既存のLGBT社会運動の「LGBT」に「PZN」を加え、「LGBTPZNパレードを!」「LGBTPZNで連帯して差別をなくそう!」などと、LGBT社会運動のパロディを行う下記のような動きが続く。

・「@LGBTPZN」の日本語twitterアカウント開設(現在更新停止)
・WEBサイト「LGBTPZN.org」開設(現在閉鎖)
・複数の個人ブログがLGBTPZNについて言及

▼2017年3月〜 複数のまとめサイトがLGBTPZNについて言及

 以下、タイトルの一例です。

・【悲報】「LGBTPZN」という言葉が流行。ぺド、獣姦、屍姦が追加される [無断転載禁止]©2ch.net
・「LGBTPZN」とかいう闇の深い概念wwwwwwwww
・【LGBTPZN】今年の東京レインボープライドパレードではLGBT以外の性的マイノリティも参加歓迎だと話題に ロリコンども今こそ立ち上がれ

 このように「LGBTPZN」は、twitter→個人サイト→2ちゃんねる(現5ちゃんねる)→まとめサイト、という道筋をたどってきました。なお2018年4月2日現在、最新100件のツイートを分析すると、以下のような特徴が見られます。

・最新100件のツイートのうち、100%が日本語ツイート(2018年4月2日現在)
・最も一緒に使われるハッシュタグは「声かけ写真展」、続いて「ありがとう声かけ写真展」(関連記事:http://wezz-y.com/archives/31235)
・論文なし
・報道なし
・商業出版物なし

 つまり現時点でLGBTPZNは、ほぼ日本語のインターネット上でしか使われていないものだと言ってよいでしょう。

 しかしながら複数の日本語WEBサイトに、「LGBTPZNはポーランドで使われていた言葉だ」という記述がみられます。具体的にどういう背景でのことだったのでしょうか。再び時系列でまとめていきます。

LGBTの子を持つ親の手紙をアンチが揶揄 ポーランドでの経緯
・2016年7月初頭
 ポーランド首都・ワルシャワ平等パレードにて、LGBTの子を持つ親たちが、「世界中からカトリックの若者が集うワールドユースデーに合わせ、ポーランドにおけるLGBTの現状についてローマ教皇に手紙を書こう」と発案。下記のような被害状況を訴える。

・LGBTのシンボルが燃やされる。
・LGBTの子どもたちが、日常的な暴言や暴力にさらされる。
・異性愛者でない人々が攻撃される。
・同性愛者の権利運動に取り組む団体の事務所が攻撃される。

(参考:ポーランド語メディア「WP Wiadomości」ニュース記事、手紙の英語訳)

・2016年7月10日

(画像:Politically Incorrectスクリーンショット、2018年4月3日閲覧)
 ポーランドに近いロシアのIPアドレスから、英語の匿名掲示板サイト「Politically Incorrect」に、「LGBTPZN。愛は愛。平等と受容を」と、英語圏におけるLGBT社会運動のスローガンを改変した匿名投稿がなされる。

・2016年7月22日

(画像:SALON24スクリーンショット/2018年4月3日閲覧)
 投稿型サイト「SALON24」にて、「LGBTPZNの親たちが教皇に手紙を送った」という反LGBT的な記事が、stopfalszerzom(偽造反対)というアカウント名のユーザーにより投稿される。

 以上、ポーランドでの経緯をたどってきました。

「長い。3行でまとめろ(インターネット古語で言う「今北産業」)」という態度で、丁寧に文献を読もうとはしない人に向けて言うならば、こういうことが言えるでしょうか。

「LGBTPZNは
子供を守りたいポーランド人への皮肉で生まれ
子供を性欲の対象にする日本人の皮肉で広められた言葉」

 さて、ここで筆者がキレてLGBTPZNを全否定すれば、きっと炎上させたかった人たちの思う壺なのでしょう。が、そうはしません。改めて、冒頭のこの話に戻ります。

全ての人には、性のあり方にかかわらず、
1.好きなものを好きでいる自由がある。ただし、性暴力は他者の自由の侵害である。
2.嫌いなものを嫌いでいる自由がある。ただし、侮辱・蔑視・攻撃は他者の自由の侵害である。

 どういうことなのか。最後にまとめます。

「やらせろという連帯」から「やってしまわないための連帯」へ
 日本含む各国では、小児性愛・動物性愛・死体性愛・加虐性愛・日本語で痴漢と呼ばれるものを含む性暴力加害その他、実行に移せば他者の権利の侵害となる欲望を持つ人が、その行為に合意を示せない小児・動物・死体や、その行為に合意を示していない対象に手を出してしまうことのないよう、似たような欲望を持つ人同士で話し合う自助団体が存在します。つまり、「やってしまわないための連帯」があるのです。

 しかしながら、LGBTにPZNを加えようという人の一部は、LGBT社会運動を「大っぴらな変態性欲」「やらせろという運動」などと矮小化し、「LGBTだけじゃなく自分たちにもやらせろという連帯」を求めているように思えます。

 本人がどんな人であろうが……異性愛者であろうが、同性愛者であろうが、シスジェンダーであろうが、トランスジェンダーであろうが、男性であろうが、女性であろうが、こうした二元論におさまらない人であろうが、オムツフェチであろうが、ロリコンであろうがとにかく、性別・性自認・性表現・性的指向・性的嗜好その他一切関係なく、同意していない相手を性的な行為に巻き込むことは性暴力です。そして小児・動物・死体は、行為時点での同意を、客観的に確認可能な形では示すことができません。

 また、LGBT、非LGBT(と便宜的に表記します)、そしてPZNは、別個に存在するわけではありません。端的に言えば、同性愛の小児性愛者もいるし、異性愛の死体性愛者もいます。そして「やってしまわないための連帯」は、全ての人に可能なはずです。

「異常ではなく正常です」のロジックを問い直す、LGBTPZN
 英語圏で始まったLGBT社会運動は、何に興奮するかを「性的嗜好(sexual preference)」、どの性別の人を恋愛/性愛のパートナーとしたいか(もしくは、したくないか)を「性的指向(sexual orientation)」として切り分けました。そして「性的指向は性的嗜好と違い、生まれつきで、変更不可能だ」と、生得性および変更不可能性を盾に、「異常ではなく正常だ」と訴えてきた歴史があります。このロジックは、当時のアメリカでは非常に有効なものでした。例えば、同性愛治療と称した拷問行為を止めるために。例えば、「女のくせに男装するなんて男を騙る詐欺罪だ」と不当逮捕される人を救うために。

 ですが、これで良かったのでしょうか。

生まれつきでない同性愛者は差別されて良いのでしょうか。
やめられるけれど趣味で始めた女装は差別されて良いのでしょうか。
異常ではなく正常です、と言えない人たちは、差別されて良いのでしょうか。

 LGBTPZNは、性的指向を生得性と変更不可能性の二点から性的嗜好より上位に置く価値観を問い直し、「やってしまわないための連帯」の可能性を開拓しうる概念であると筆者は考えます。

 「LGBTとPZNを一緒にするな!」と吠える姿こそ、炎上狙いの人々が見たかったLGBTの姿なのでしょう。が、一緒だと思います。本来、みんな一緒の人間だと思います。「○○界隈」とか「○○派」とか「アンチ○○」とか、もう疲れたのです。ポーランドはおろか日本での経緯も知らないまま3行しか読まずに叩く、ネット上での「どっちが弱者でしょう合戦」には、もう、心底、疲れたのです。

 ただ、人として、全ての人が「やってしまわないための連帯」をして行ける社会を望みます。

全ての人には、性のあり方にかかわらず、
1.好きなものを好きでいる自由がある。ただし、性暴力は他者の自由の侵害である。
2.嫌いなものを嫌いでいる自由がある。ただし、侮辱・蔑視・攻撃は他者の自由の侵害である。

 大事なことなので、3回言いました。

最終更新:2018/04/15 07:15
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