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根なし草ライター・安宿緑の「平壌でムーンウォーク」

日本人拘束事件から考察する、「笑ってはいけない北朝鮮」トラップ

■北の最高尊厳にまつわる「緊張と緩和」理論

 特に最高尊厳イジリは厳罰だ。

 金委員長とその一族への嘲笑や侮辱は、国家に対する攻撃と見なされる。安倍首相の悪口を言うノリと同じにしてはならない。

 だが訪朝すると、日本人の感覚でみればコミカルな写真や映像も少なくないため、「笑ってはいけない北朝鮮」状態に陥ってしまう場面がある。

 日本人と朝鮮人民の感覚の乖離が、お笑いにおける「緊張と緩和」を生み出してしまうのだ。

 日本で生まれ育った筆者も、これまで幾度となくそうした場面に遭遇した。

 平壌郊外にある「朝鮮映画製作所」での話だ。そこには朝鮮映画撮影時に使われるセットや特殊効果に関する各種機材が展示されているが、故・金日成主席のカラオケ音声が聞ける装置が唐突に置いてある。

 金主席が歌うのは、1916年前後に朝鮮の独立運動で歌われたという「思郷歌」(北朝鮮では、金主席が作詞作曲したとされている)。故郷を出奔する際の、母親との別れを歌ったものである。

 だが、これがあらゆる意味で驚きだった。

 元の譜面や伴奏にまったく合わせることなく、自由闊達にメロディを刻む金主席の歌声。そして、伴奏が終わる前に早々と歌い終えた、金主席の後を追うようにしばし流れる後奏。高齢者がカラオケをすると誰でもこうなるだろうという音声なのである。

 正直、なぜ展示してあるのかという疑問とともに、こみ上げる笑いと戦うのに必死であった。

 だが、朝鮮ではそれを面白いとする感覚自体がない。高齢でリズムも取れず、思うように声が出ない中、いまだに故郷の母を思い歌う金主席の心情など、むしろ感動ポイント満載の貴重な音声なのである。

 厳粛な場が、それにそぐわぬ何かでぶち壊されるといった日本式お笑いセオリー、志村けん的世界観に慣らされた側からすると、ついお笑い琴線に触れてしまうが、朝鮮にとっては厳粛な場はあくまで厳粛な場なのである。

 さらに、それにはまだ続きがあった。すぐ隣に展示されている金主席の写真が何かおかしい。主席の頭部が七福神の「寿老人」のように長く伸びているのだ。“一体どういうことなんだ!?”と一同騒然としていると、後方の人物が絶妙に重なってそのように見えていただけということが判明。先ほどの音声とのダブルパンチに耐えきれず、爆笑が起きてしまった。

 だが、案内員は明らかに不快感を示していた。意味もわからず笑い者にされているのだから、当然である。

 朝鮮最大の水泳施設「文繍遊泳場」の入り口で、麦わら帽子をかぶって海をバックにほほえむ金総書記(※撮影禁止)の蝋人形と対面した際も、どう我慢してもニヤけてしまい、気をそらすことに苦労した。

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