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映画『愛しのアイリーン』公開記念インタビュー

苦労して築き上げた世界を一瞬で壊すのが快感!! 孤高の漫画家・新井英樹が独自な世界観を語る

■幻に終わった『ザ・ワールド・イズ・マイン』の実写化

──テロリストたちの無軌道な暴走を描いた問題作『ザ・ワールド・イズ・マイン』(「週刊ヤングサンデー」連載)は、『宮本から君へ』からすでに萌芽があったとは! 深作欣二監督で『ザ・ワールド・イズ・マイン』を実写映画化する企画もあったというのは本当ですか?

新井 深作監督でそういう企画があったことは聞いてました。深作監督の息子さん(深作健太監督)が引き続き映画化を考えていたそうですが、残念ながら流れてしまいましたね。

──映画化された『愛しのアイリーン』ですが、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(63)や『楢山節考』(83)を彷彿させます。原作執筆時から意識されていたんでしょうか?

新井 今村昌平作品が大好きなんです(笑)。ツル(木野花)が岩男を出産した頃を回想しているシーンは、原作でも『にっぽん昆虫記』をイメージしたものでした。後半はもちろん『楢山節考』です。今村監督が描く女性像が好きなんです。イデオロギーもこだわりもないけれど、今村作品の女性たちはたくましく生きていく。それに比べて、男たちのなんと弱いことか(笑)。知り合いの作家から聞いたんですが、今村監督は『宮本から君へ』と『ザ・ワールド・イズ・マイン』は読んでくれていたそうです。『ザ・ワールド・イズ・マイン』を読んで今村監督は、「この作者は50代で……」と話していたと聞き、うれしくなりました。『ザ・ワールド・イズ・マイン』を描いていた頃は、俺まだ30代でしたから(笑)。

──日本人ならではの土着的な世界を撮り続けた今村監督が、『ザ・ワールド・イズ・マイン』を映画化していたら、一体どんな作品になったことか。

新井 もし実現していたら、面白かったでしょうねぇ。

 

■高校時代にさかのぼる新井ワールドの原風景!

──今村監督の弟子筋に、バイオレンス映画で知られる三池崇史監督がいます。三池監督は大阪工業大学付属高校(現在の常翔学園高校)1年のときラグビー部に在籍しており、「最初のプレーでモールやラックでもみくちゃにされると、全身にアドレナリンが走って気持ちよくなり、それから体が動き始める」と語っていました。

新井 そうですか。俺も高校のとき、ラグビーをやっていました。

──新井作品の主人公たちもボコボコにされることで覚醒し、暴走を始める。予定調和が嫌いな点など、三池監督とどこか共通するものを感じます。

新井 俺の場合はMっけがあるんだと思います。好きになった女性には、男がいてほしいとね(笑)。寝盗られ物語とかも好きです。高校3年間ラグビー部にいたんでね、肉体と肉体がぶつかり合うときの痛みや、転んで地面に当たる瞬間の衝撃は知っているわけです。漫画を描くようになって、そのことは自分の財産だと考えるようにしています。人間同士がぶつかると痛い。しかも痛いのは肉じゃなくて骨なんだと。そういった肉体の感じる痛みは、漫画でちゃんと描こうとしています。

──高校時代のラグビー体験は、新井作品にかなり影響を与えている?

新井 それはあると思います。高校に入ってからラグビーを始めたんだけど、ラグビー中毒かと思うくらいハマっていました。走っている相手に飛び込んで、タックルするでしょ。相手と一緒に宙を浮いて、飛んでいる瞬間が気持ちいいんですよ。高校3年の最終シーズンを迎えた春合宿中の練習試合で、残り最後の5分というときに、相手2人目がけて向かっていったんです。その頃の俺は怖いものなしで「2人くらい全然平気!」と思っていたんです。ところがその瞬間に足首の靭帯を切ってしまい、最後のシーズンを棒に振りました。最後の大会は結局、試合に出ることができず仕舞い。県大会の何回戦かでうちの高校が敗れて、みんな泣いているのに、俺ひとり醒めていましたね(苦笑)。

──苦労して築き上げてきた世界が一瞬にして崩壊するという、新井ワールドの原風景ですね。

新井 もうひとつ暴力に関して言うと、これはクリント・イーストウッドの受け売りになってしまうけど、「暴力から逃れる物語はありえない」と。暴力が物語に入ってこないとしたら、それは見ていないだけなんです。当然、俺が描いている世界にも存在するものだし、主人公の身近に起きることかもしれない。そんな不条理なことが起きたら、どう対処するのかと。想像以上の力を発揮して抵抗するかもしれないし、無茶をやり過ぎて潰れてしまうかもしれない。ドラマを盛り上げるために、主人公をピンチに陥らせることがあるけど、俺はそういうのは大嫌い。どうせこの人は助かるんでしょ、と思ってしまう。俺の描く作品は、よく露悪的だと言われるけど、品のあるものを描くのなら、ちゃんと下品なものも描かなきゃといけないということなんですよ。

(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『愛しのアイリーン』
原作/新井英樹 脚本・監督/吉田恵輔
出演/安田顕、ナッツ・シトイ、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、桜まゆみ、田中要次、伊勢谷友介、木野花
配給/スターサンズ R15 9月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ
http://irene-movie.jp

●新井英樹(あらい・ひでき)
1963年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、文具メーカーに勤めるも、漫画家を志して退職。89年に高校ラグビー部での体験を題材にした「8月の光」で漫画家デビュー。92年に『宮本から君へ』(講談社)で小学館漫画賞を受賞。以後、『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』『キーチ!!』『なぎさにて』(すべて小学館)と問題作を次々と発表し、多くのクリエイターたちに多大な影響を与え続けている。『宮本から君へ』(テレビ東京系)は池松壮亮主演作として連続ドラマ化され、10月3日よりブルーレイ&DVD-BOXが発売される。

最終更新:2018/09/13 16:00
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