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映画『愛しのアイリーン』公開記念インタビュー

苦労して築き上げた世界を一瞬で壊すのが快感!! 孤高の漫画家・新井英樹が独自な世界観を語る

40歳を過ぎても独身だった岩男は、フィリピンで18歳の少女アイリーンと結婚するも、なかなかSEXできずにいた。

■作者自身がスリルを感じながら執筆している

──『宮本から君へ』では、主人公の宮本は恋人がレイプされたことから暴走を始める。『愛しのアイリーン』ではフィリピン人のアイリーンと契約結婚を交わした岩男は、アイリーンを守るために猟銃を手にして暴走を始める。主人公の暴走劇は、新井作品の大きな見どころ。暴走シーンを描くのは体力を使うし、そこに至るまでに緻密な世界観や人間関係を築き上げなくてはならないので、大変な作業かと思います。

新井 もちろん、肉体的にはとても大変です。でも、俺はストーリーそのものには、さほど興味がないんです。だいたいの枠組みは頭の中で考えてはいるけれど、実はそれまで緻密に築き上げてきたように見える世界観を早く壊したいとしか考えていないんです。今ある世界を横殴りにして壊したくて仕方ないない。そして、そのときに人間はどう動くんだろうということに興味があるんです。もしかしたら、自分が考えていることとは違うことが起きるかもしれないぞと。予定不調和が大好き。それが楽しくて、漫画を描いている。逆にいえば、そこに至るまで、緻密に世界を築いていく過程はつらくてどうしようもない。

──苦労して築き上げた世界を一瞬で壊してしまうのが快感ということですか。

新井 そういうことです。予定調和が大嫌いなんです。子どもの頃から、勧善懲悪もののテレビ時代劇を自宅でおばあちゃんや母親が観ていると、「なんで、こんなもの観ているんだ!」と罵倒していました。最後は善人が悪人を倒して終わり、という物語は耐えられない。俺が子どもの頃に観ていた時代劇は、三隅研二監督が撮った『子連れ狼』(72)や勝新太郎が主演した『御用牙』(72)とか、そっちのほう。視聴者観覧型のバラエティー番組『笑っていいとも!』(フジテレビ系)が醸し出す空気も大嫌いでした。みんなで同じことをやらされるのが、すごく嫌。それが漫画にも出ているんだと思います。

──だいたいの枠組みは考えるとのことですが、暴走した際の明確な着地点は分からずに描き続けるわけでしょうか?

新井 明確になるのは、打ち切りを言い渡されたあたりからです(笑)。連載の打ち切りが決まった。じゃあ、ここらへんに着地することになるかなと。尻が決まれば、それまで描いてきたものの中に何か活かせるものがあるはずだと思い返すわけです。基本、そんな感じ。「俺、これをどうやって終わらせるんだろう」と自分自身がスリルを味わいながら、楽しんでいるんです(笑)。前もって決めていた筋書きに沿って、ネームを考え、ペンを入れて漫画を仕上げていくという工程がすごく苦手。そういったルーティンワークが嫌で、サラリーマンを辞めて漫画家になったわけですから。多分、吉田監督も俺と同じで、飽きっぽい性格なんじゃないかな。撮影現場で思ってもいなかったことが起きることを、ドキドキしながら楽しむタイプだと思いますよ。

 

■男と女がいちばん燃えるシチュエーションとは……?

──中にはコントロールできないことを嫌がる漫画編集者もいるのでは?

新井 いますね。でも、『愛しのアイリーン』の連載中は、「新井さん、ちんこは描いちゃダメだよ」と言われたぐらいかな。それで『愛しのアイリーン』では岩男のちんこ部分をぼやかすためにスクリーントーンを貼ったんだけど、それで余計に目立ってしまった。みんな苦笑いで済ませてくれたから、「あっ、ちんこ描いても平気なんだな」と。別にちんこをすごく描きたいわけじゃないんですよ。あるものを描かないことが嫌なんです。気づいたら、俺が描いた男の主人公たちは、みんなちんこを出してました(笑)。

──原作と同様に、映画でも岩男とアイリーンが初めてSEXするシーンは大変な熱量で描かれています。まさに血と肉を乗り越えて、2人は繋がることになる。結婚はきれいごとだけでは済まないという、愛の実相をここまで鮮やかに描いた作品はそうそうないと思います。

新井 (うなづきながら)原作では岩男とアイリーンがどうすれば結ばれるかを考えて、序盤に山狩りのシーンを用意したんだけど、それでは2人を近づけることができず、山狩り後ってのは棄てました。じゃあ、どうすれば2人を結ばせることができるかを考えに考えました。そのとき思い出したのは、パチンコ店に勤めている吉岡愛子が、殺人を犯した夫に抱かれたときにすごく燃えたというエピソードでした。「あっ、これが使えるな」と。多分、「心から愛しているよ」みたいなきれいごとを言われても盛り上がれない。男と女が共犯関係に陥ったときこそ、最高に燃えるんだろうなと。これこそ恋愛だ、本当の愛だと誤解する瞬間でもあると思うんです。共犯関係に陥った男女は、もう止まらなくなるだろうなと。手探りで描いていた『愛しのアイリーン』でしたが、これで乗り切れるという手応えを感じた瞬間でしたね。

──ある人間の死が、生き残った男女に性の喜びをもたらす。エロス&タナトスの世界ですね。

新井 実は『宮本から君へ』の最終話は、二度ボツにされたんです。最初に考えたのは、宮本が飛行機に乗って海外に旅立ち、その飛行機が墜落するという結末でした。もうひとつ考えたのは、宮本の暮らしているアパートの隣室でテロリストが爆弾を作っていて、その爆弾が誤爆し、宮本はその巻き添えになって、やはり死ぬというものでした。編集者から「この主人公はそういう終わり方をしちゃダメだ」と言われて、それでああいう結末になったんです。でも、人間が意味のない死に方をすることって、実際あると思いますよ。アメリカンニューシネマが好きだったことも影響を受けているかもしれません。アメリカンニューシネマは、みんな主人公は最後に死ぬでしょ。『愛しのアイリーン』を描きながら、「今度は人間の生死を描けるな」と思っていたんです。それがさらに『ザ・ワールド・イズ・マイン』へと繋がっていくことになった。

ひとり息子の岩男を溺愛する母・ツルを演じるのは、ベテラン女優の木野花。これまでのイメージを覆す毒親を熱演している。

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