日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 中東紛争を題材にした傑作映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.557

中東紛争を題材にした傑作バックステージもの 予期せぬ結末『テルアビブ・オン・ファイア』

分離壁の建造に意味はあるのか?

『パラダイス・ナウ』(05)で自爆テロに向かう若者を演じたカイス・ナシェフが主演。シリアスな役から、大胆なコメディに挑戦してみせた。

 脚本のいい作品は、小道具の使い方もうまい。本作で重要な役割を果たすのは、パレスチナの伝統的な家庭料理の「フムス」だ。ヒヨコ豆を潰したペースト状の料理であり、ピタパンにたっぷり塗って食べるとすごくおいしい。イスラエル人のアッシは、このフムスに目がない。パレスチナ人のサラームに「美味しいフムスを持ってきたら、脚本のアイデアを提供してやる」と脚本料代わりにフムスを要求する。一方のサラームはフムスが大嫌い。子どもの頃に戒厳令が敷かれ、外出できずにフムスばかり食べさせられ、フムス嫌いになってしまったのだ。

 1948年にイスラエルが建国され、それまで暮らしていた土地を追われたパレスチナ人の多くはパレスチナ難民となり、今も紛争が絶えない。軍事的・政治的には厳しく対立しているイスラエルとパレスチナだが、本作を観ているとテレビドラマなどの娯楽産業や食文化においては、両者の間に境界線は存在しないことが分かる。脚本のやりとりを重ねるうちに、アッシとサラームも友人とは呼べないまでも人間的な交流が生じるようになっていく。イスラエル政府が建造させ、軍隊が守るイスラエル西岸地区の分離壁のなんと無意味なことだろうか。

 笑ってはいけないシチュエーションが、より大きな笑いを呼ぶ。本来、笑いとは場の空気を壊す不謹慎なものだ。パレスチナ系イスラエル人であるサメフ・ゾアビ監督が生み出した『テルアビブ・オン・ファイア』は、イスラエルとパレスチナとの緊張関係を笑い飛ばす、超強力な破壊兵器だと言えるだろう。

(文=長野辰次)

 

『テルアビブ・オン・ファイア』
監督/サメフ・ゾアビ 脚本/サメフ・ゾアビ、ダン・クランマン
出演/カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン配給/アットエンタテイメント 11月22日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開(c)amsa Film – TS Productions – Lama Films – Films From There – Artémis Productions C623
http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire

 

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

最終更新:2019/11/21 10:58
123
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真