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「鳥貴族でも流れるポップスがやりたかった」菊地成孔の“アヴァター”によるFINAL SPANK HAPPYとは何か?

クラシック音楽の調性と、ジャズの脱調性

ーー制作は具体的にどのように進行していったんですか?

BOSS すべて共作ですね。実は僕も菊地君もDTM(デスクトップミュージック。パソコン上で音楽専用のソフトウェアを用いて作曲・演奏すること)が一切できないんですよ。「昔やってたけど今は~」みたいなことでなく、自分でMIDI(シンセサイザーなどの電子楽器やコンピュータ間で演奏データをやり取りするインターフェース規格)を立ち上げたことが一度もない。でも、菊地君にはマニュピレーターの舎弟みたいなみなさんがたくさんいるから、毎回菓子折りを持ってその子たちの家に行き、イメージを形にしてもらっていて、今回のアルバムにも彼らは参加していますが、なにせFINAL SPANK HAPPYではODがデジタル機器を操れます。なので、初動ーーデモ制作は常に一緒に作っています。

ーーODさんも作曲できますよね?

OD イエースじゃないスか。だから、自分は自分でデモを作って、それに対してBOSSが「こういうセクションがあったほうがいい」と提案してくれたりとか。逆にBOSSのデモテープに自分が手を加えたりもするデスし。全曲、2人のアイデアが混じってるデスね。今となってはどの曲のどこをどういじったかをそれぞれが覚えていないぐらい(笑)。

BOSS ブラッシュアップや、逆に、シンプライズをすることも多いです。ブラッシュアップ役はコイツで、シンプライズ役は私ですが。例えば「太陽」なんかは、まず私がベースとなるコード進行を作りました。その段階では、地中海的というか、ポエジーや深みが必要な曲だったんですが、私だけでは真の思いが出せない。なのでホーンとストリングスのアレンジはODに頼みました。僕がイメージを伝えると、小田さんにおねだりして、彼女の藝大のお仲間をケータイで呼び出し、パパッと録音しちゃっていましたね。

OD それほどでもないじゃないスか~(笑)。

BOSS コイツと制作していてつくづく思うのは、クラシック音楽の調性(長調・単調に基づくメロディやコード)が完全に血肉化されているということです。凡才の手によるとありきたりに古くさくなるオブジェクトが、ものすごく高級で完璧なんです。私は菊地君のアヴァターで住んで、根本にはジャズがあるんだけど、ジャズのある側面を誇張していうと、古典的な調性から抜けて無調に近づけていこうとする音楽なんです。モード(旋法。ジャズの場合では、調に基づいたコード進行を主体とせず、自由にメロディやハーモニーを作る手法)を使ったりしてね。ブルースも無調的ですし。

OD クラシックも脱調性に向かっている音楽はたくさんあるデス。ジャズのようにモードを使ったりはしないけど。だから調性がしっかりした、いわゆるバッハ的なものを好むのは、自分個人の資質デスね。

BOSS そうだね。そして、クラシックの脱調性はガチンコだから(笑)、ポップじゃないんですよ。

OD クラシックの脱調性は怖くなりがちデスね(笑)。怖い映画とかに流れちゃうじゃないスか~。

BOSS ジャズやヒップホップは、それをクールに、かつ大衆的にやることがミッションなんです。僕はフックを作るのが得意です。一方で、ODはベーシックなボディを作る力が尋常じゃないほどある。なんせ、交響曲を書ける奴ですからね。僕らは本当に対照的なんですよ。調性と脱調性。ドラマティックな展開が欲しい人と、ミニマルでフックがあればいいと思う人。ポップス史に詳しい、詳しくない、でも、お互いのことを尊敬し合っているということがポイントです。僕だけではできないし、ODだけでもできないポップスになっています。

ーーODさんにとって、BOSSさんとアルバムを一枚作ったことはどんな経験になりましたか?

OD バカみたいな答えかもしれないデスが、すごーく勉強になったじゃないスか!(笑) どんな音楽でも体裁さえ整えてしまえば、それっぽく聞こえるじゃないスか。だけど、一番大事なのは“ポップな感覚”を持っていることだとBOSSに教わったデス。自分にはそれがなかった。だからついついどの曲もクラシックみたいなドラマと展開が欲しいじゃないスか。構成はポップスのはずなのに。BOSSは本当に極端な表現をするデスね。さっきBOSSは「フックを作るのが得意」と言ってたけど、その極端さが引っかかりになって人の心をつかむじゃないスか。

BOSS ODは「音楽の古典を押さえていれば、ポップスはさっさと書ける」と思っていたところもあったでしょ?

OD  お恥ずかしながら(笑)、最初はそこは少~し思ってたじゃないスか(笑)。 簡単なことで人の気持ちを引き寄せることが、実はすごく難しいという音楽の魔法の種類が違うということを思い知らされたじゃないスか。正直、BOSSの極端さに最初は拒否反応もあったじゃないスか。でも、だからこそ面白いじゃないスか。

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