「鳥貴族でも流れるポップスがやりたかった」菊地成孔の“アヴァター”によるFINAL SPANK HAPPYとは何か？

中高生の完璧なダンスに右傾化を感じる

ーーFINAL SPANK HAPPYはダンスも大きなポイントですよね。YouTubeで公開されたフェス「森、道、市場 2019」での「エイリアンセックスフレンド」のライヴ映像は話題になりました。

OD　最初は戸惑ったじゃないスか～（笑）。「こんなのできないじゃないスか！」って。

BOSS　FINAL SPANK HAPPYがああいうダンスをやることには、いくつかの意味があります。何年か前から中学～高校でダンスの授業が必修科目になりましたよね？　日本は音楽を聴いて体が動かない、世界1位の国なので、これでその状況もちょっとは変わるかなと期待していたんですよ。ちなみに、音楽を聴いて体が動く世界一位はキューバなんですけどね（笑）。私は音楽に合わせて好きなように体を揺らすことによって、恥かしがり屋の子、ちょっとスロウな子、極端なことをいえば自閉症の子とかが、少しは自由な感覚が得られるようになるんじゃないかなと。でも、蓋を開けてみたら、学校で教えているのはダンスというより、スーパーハイスキルなマスゲームだった。

ーーどういうことでしょうか？

BOSS　求められているのは、すごく緻密なフォーメーションとスキルが必要な群舞だったわけです。これは自由どころか、むしろ集団意識を促しているようなもので、右傾化の最たる動向だと感じたんですよ。僕らは北朝鮮の軍事パレードに嫌悪感を覚えるけど、ダンス部の高校生にものすごい感動してしまいますよね。ファッショというのは、快感と感動からやってくる。ナチス宣伝相ゲッベルスも「真のプロパガンダは娯楽の中にある」と言っていましたから。

OD　気持ち良くないと洗脳は成立しないじゃないスか～。

BOSS　私は安倍さんの動きなんて全然知りませんが、中高生の完璧なダンスに感動するその流れにこそ、よっぽど右傾化を感じます。何よりも、自分も感動しているからです。みんなスキルを追求している。多様性なんかとは一番遠い、ハイスキルに感動して国がひとつになる快感ですよね。我々はお遊戯みたいな曖昧でかわいいダンスを復権させるべく表現しているつもりです。「あんま揃ってないけど、なんかかわいいよね」みたいな感じが今の日本では重要だと思っているんです。ダンスのみならず、文化にはすべてそういう側面も含ませるべきです。

OD　ファシズムといえばミトモさんは昔、合唱をやってらしたじゃないスか（笑）。

BOSS　集団心理を生み出すために合唱が有効だというのは、結構指摘されているもんね。とはいえ、ODの作る音楽には合唱のスキルが本当に活きている。コーラスってR&B的な組み立て方や、フォークのような自然な作り方もあるんだけど、ODは作り方がアカデミックなんですよ。難しい音をスッと入れ込む力がある。

OD　そんなに意識していないデスが、自分的には感覚的に気持ちいい音を一本ずつ歌って重ねているだけで。ただ、好きな響きのストックは結構たくさんあるので、そういうのが自然と出ちゃっているのかもしれませんじゃないスか。

BOSS　「もうちょっとヤバい音入れてよ。9度とか」とか言うと、「ハイハイ入れるじゃないスか～」ってパッて入れてくれるんですよ。

OD　ハーモニーはガチンコで面白いじゃないスか～。楽譜的には同じ和音のはずなのに、楽器ごとに全然違うものになるし、それが声になると歌う人によっても変わってくるデス。

BOSS　日本のポップスでは、背景にビーチ・ボーイズがある山下達郎さんや、フュージョンやAORに影響を受けた冨田LABさん、フォークをバックグラウンドに持つKIRINJIさんあたりのハーモニーが有名だけど、ODはその誰とも違う特性を持っているので、コンテンツとして強いですね。