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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.576

ウイルスよりも人間のほうが、ずっと恐ろしい!! パンデミック後の世界を描いた『キュアード』

一般大衆の不安を煽るメディアや政治家たち

感染症の恐ろしさを知るセナン(サム・キーリー)。感染者同士は共感性が増すという、ゾンビ映画としての新基軸も盛り込まれている。

 健常者たちが元感染者を迫害する恐ろしさに加え、ゾンビ映画である『キュアード』のもうひとつの恐怖ポイントは、元感染者であるセナンたちは感染時の記憶を持っているという点。自分が凶暴化して理性を失っていた頃の記憶がフラッシュバックして、セナンは実家に戻ってからも落ち着いて眠ることができない。いわゆる、PTSD(心的外傷後ストレス)と呼ばれる状態だった。そんなセナンに、兄嫁のアビーとアビーのまだ幼い息子キリアンだけは温かく接してくれる。だが、セナンは兄ルークが亡くなった真相を知っており、そのことを打ち明けることができない。アビー母子の優しさが、よりセナンを苦しめることになる。
 本作で長編デビューを果たしたのは、アイルランド出身のデイヴィッド・フレイン監督。2012年ごろに『キュアード』の脚本を執筆したそうだ。前日談となる7分の短編映画『The First Wave』(14)が資金提供者たちの目に留まり、本作を完成させた。

 ゾンビ映画の原典である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は米国とソ連との冷戦状況を社会背景としており、米国内でも共産主義者が増え、やがて国家が崩壊してしまうのではないかという不安感が根底に流れていた。『キュアード』の場合は、2010年代になって欧州で急増したアフリカや中東からの難民たちをめぐる不穏な空気が盛り込まれている。見た目も違えば、生活様式も異なる大量の移民者たちを、自分たちが暮らす街に受け入れることができるのか。仕事を奪われるのではないか、犯罪や病気が増えるのではないか。排他主義者、移民者、人権派団体との間で、現実問題として衝突が起きている。

 また、フレイン監督は政治家やマスメディアは一般大衆の不安を煽ることで、自分たちの立場をより強固なものにしているともコメントしている。

「私はメディアや政治家たちが自らの目的のために、いかに人々の恐怖を煽るかにも興味を抱いた。その恐怖の対象が移民、宗教、ジカ熱など、いずれであっても。そうした行為は怒りと分裂の雰囲気を作り出し、どんな病気よりも遥かに有害だ。このように恐怖を誇張する行為が『CURED キュアード』の世界の基礎を築いている」(デイヴィッド・フレイン監督)

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