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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.574

路上生活者の肉体言語が街をステージに変える! 表現手段を持つ喜び『ダンシングホームレス』

ホームレスたちをメンバーにしたダンスグループ「新人Hソケリッサ!」。公園や路上が創作ダンスの発表の場となる。

 公園で、そして路上で、オッサンたちが思い思いのダンスパフォーマンスを繰り広げている。決して切れ味鋭いステップではないし、惚れ惚れするような筋肉美を誇っているわけではない。でも、それぞれのオッサンたちは味のある風貌をしており、不思議とその踊りに魅了されてしまう。「新人Hソケリッサ!」は路上生活者、もしくは元路上生活者たちによって構成されたダンスグループだ。ドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』は、ソケリッサの活動を2017年から追っている。厳しい路上生活を送るソケリッサのメンバーにとって、ダンスという表現手段を持つことがかけがえのないものになっていることを本作は伝えている。

 新人Hソケリッサ!を主宰しているのは、振り付け師であるアオキ裕キさん。Hはホームレス、ホープ、ヒューマンの頭文字であり、いつも新人のような気持ちでダンスに取り組もうという意味が込められている。チャットモンチーやL’Arc-en-Cielなど人気ミュージシャンたちのPV用のダンスパフォーマンスの振り付けでも実績を残しているアオキさんは、2006年にソケリッサを結成 した。2001年9月11日に起きた同時多発テロを、ダンス留学中の米国で間近に体感したことがきっかけだった。社会のルールに縛られない路上生活者たちが踊れば、それは言語のなかった時代の原始的な感情表現に近いものになるのではないかとアオキさんは考えた。路上販売誌「ビッグイシュー」の協力を得てメンバーを募集したところ、個性的な顔ぶれが集まった。

 本作の試写を観た後、試写室近くの「はなまるうどん」で昼食を摂っていると、やはり試写に来ていたソケリッサのメンバーたちと一緒になった。若手メンバーの西篤近さんは元自衛官だけにたくましい体をしており、明るくてトークもうまい。年長者の小磯松美さんは海外からの取材記者に英語で対応してみせるインテリであり、いつもにこやかな笑顔を浮かべている。新聞配達員をしていたものの、メニエール病で職を失った横内真人さんは朴訥とした魅力の持ち主だ。ソケリッサの公演を観た平山秀幸監督に誘われ、映画『閉鎖病棟 それぞれの朝』(19)に俳優として出演している。思いがけず、「はなまるうどん」で映画キャストと身近に接することができた。

 ソケリッサのメンバーは人間味に溢れているというか、敷居が低いというか、彼らの気取りのない会話を聞いているだけで面白い。小磯さんのとぼけた味わいのしゃべりに、西さんがうまくツッコミを入れる。横内さんも不思議な存在感がある。そんなやりとりを笑って見守っているのがアオキさんだ。ソケリッサの公演だけでは食べてはいけないので、アルバイトで稼いでいるそうだ。公演に参加したメンバーのギャラだけでなく、この日はうどん代もまとめて払っていた。アオキさんは単なる振り付け師・演出家ではなく、普段は都内各所でバラバラに寝泊まりしているメンバーたちをひとつに結び付ける大切な要役となっている。

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